1990年と91年夏の沖縄水産の2年連続の準優勝は思い浮かべると、いまなお胸がザワザワする。同一校が続けて夏の甲子園の決勝に立つことは極めて難しい。天理(奈良)、大阪桐蔭に敗れ全国制覇はかなわぬ夢となってしまったが、この2年間の戦いで残したものは計り知れない。
90年の沖水は栽弘義監督の中でも自信があったと思う。早くから食育や筋力トレーニングを重視し、沖縄の地理的アドバンテージを生かし、冬の遅い日没いっぱいまでボールを追い、全国で勝てる軍団に仕上げた。実力拮抗(きっこう)のこの大会で力強く勝ち抜いた。
沖水の選手たちは身長は高くないものの、筋肉はユニホーム越しでも発達しているのが分かるほどだ。特に上半身の張りとプリッと突き出たお尻が印象的だった。スイングが強く走力があり次の塁を狙う意識が高い。バントも上手だった。大会を通して26の犠打は当時のタイ記録だ。広島商業や松山商業に負けない技術だ。エースは右の神谷義治、スリークオーターで力のある速球と良く曲がるスライダーが武器だ。
決勝は天理の長身右腕・南竜次との投げ合いで0―1。ラストシーンは、追う沖水の9回裏二死二塁。九番、右の横峯孝之が左翼に鋭い飛球を放った! ラッキーゾーンまでいきそうだ! 天理の左翼小竹英己が猛然と走りバックハンドのグラブを差し出しランニングキャッチの超美技で試合終了!
指笛が鳴り響く中、打球が上がった瞬間、沖縄のファンは同点を確信したはずだが、この時、風は逆風の秋風、打球を押す浜風ではなかった。天理の橋本武徳監督は『内容はうちの負け、ただ勝負に勝っただけ』と沖水をたたえた。