今回取り上げるのは、7転びならぬ8回転んでもなお、闘志が衰えずに挑戦を続け、見事女流名人位を里見香奈女流四冠から奪取した、伊藤沙恵新女流名人。
伊藤は屋敷伸之九段門下で、里見や西山朋佳女流二冠と同じく、奨励会の出身。奨励会では1級で終わったが、2014年に女流プロに転向してからは実力を発揮し、タイトル戦の常連となった。
初タイトル戦は、2015年の女流王座戦。相手は加藤桃子女流王座(当時)で、2勝2敗とフルセットに持ち込んだが、最後の1局を敗れたことで、タイトル奪取の苦しみはここから始まる。
伊藤が容易にタイトルに手が届かなかったのは、里見にほとんど勝てなかったためで、一時は10連敗を喫した。奨励会で三段まで行った里見との差は、当時大きかった。
7度敗れ、諺の8起き目は「マイナビ女子オープン」の対西山戦。ここでも2勝2敗から敗れ、さすがにもう諦めた方がと思われた時に挑戦者となったのが、今年の女流名人戦での対里見戦だった。
今回は今までの苦手意識を吹き飛ばすかのように、最初に連勝し、3局目は敗れたものの、第4局で普段指さない振り飛車を用いて快勝。初タイトルを獲得した。
正に「諦めなければ何かが起こる」を実証したのである。