その背景には、「エスカレーション抑止」と呼ばれるロシア側の核戦略理論の2つのシナリオがあると解説する。
「1つはロシアが負けないうちに戦争を終わらせるために限定的に使う場合、もう1つは米国など有力国の参戦を牽制(けんせい)する場合だ。戦闘に勝利する目的ではなく警告するために核を使うという考え方がある。米国側も核戦略文書に対応を明記し、威力を抑えた核弾頭を潜水艦発射ミサイル『トライデント』に搭載し、撃ち返せるよう配備した。核の応酬が起きると予想される思想も能力もある」
小泉氏の分析によると、ロシアの比較的新しい核戦力には、極超音速滑空弾頭「アバンガルド」が実戦配備されているほか、弾道ミサイルを搭載できるボレイ級原子力潜水艦などがあるとみられる。過去に注目されていた大型ICBM「サルマート」は開発が遅延しているとみられるほか、実験段階のものもあると推定される。
具体的にはどのような手法が考えられるのか。小泉氏は「核戦争を回避するため非核の巡航ミサイルで脅し、心理的ダメージの低いポーランドにある米軍のミサイル防衛システムに1発発射することも想定される。もしくは、核弾頭はミサイルに搭載する数や核融合反応の度合いなど調整も可能なので、威力の小さい核弾頭を人のいない海上に落とすケースがある。いずれも標的は読めない」と指摘する。
威力が小さいにせよ、核が実戦で使われた場合、その衝撃は計り知れない。欧米の核保有国が報復に出ることになるのか。