
心臓カテーテル治療(PCI)の普及で急性心筋梗塞の救命率は劇的に改善した。しかし、患者は救命されても、その後に慢性心不全になりやすい。それはPCIによって冠動脈の閉塞は解除されて血流が再開するが、同時に急激な血流再開で心筋の細胞が死滅してしまう「再灌流(さいかんりゅう)傷害」という現象が起こるからだ。
この血流再開に伴う合併症を軽減させようと、さいたま市立病院・循環器内科では「乳酸加ポストコンディショニング」という独自のPCIを行っている。開発者の小山卓史副院長は、再灌流傷害が起こる原因をこう話す。

「再灌流傷害が起こる機序(メガニズム)は、世界的には未解決です。ただ、かつて自ら行っていた基礎研究から、信ずる理論はありました。血流が途絶えた虚血心筋ではエネルギー温存のため、細胞内に乳酸を貯めて収縮を止めています。半面、細胞内カルシウムイオン濃度は上昇し、逆に収縮を何とか維持させようとします。そこでPCIによる血流再開で一気に乳酸が洗い流されると、異常に高まった細胞内カルシウムイオン濃度によって極めて強い収縮が起こり、虚血で傷んだ心筋組織をさらに傷害するのです」