2005年に「ポストコンディショニング」という治療法が、海外で発表された。これはカテーテルに付いたバルーンを開閉させて断続的に血流を再開させる。血流を1分流し1分閉じるという操作を4回繰り返せば、心筋梗塞サイズを縮小できるという報告だった。しかし、この方法は不完全で、その後の追試験でその効果が疑問視された。そこで考案されたのが、乳酸加リンゲル液(点滴液)を使って心筋組織内に乳酸を補う「乳酸加ポストコンディショニング」だ。
具体的にはバルーンの開閉で、10秒血流を再開させて1分閉塞。20秒再開させて1分閉塞。この血流再開時間を10秒ずつ延長して、60秒まで繰り返す(正味12分弱)。そしてバルーン拡張による冠動脈閉塞の直前に、毎回、乳酸加リンゲル液をカテーテルの先から直接冠動脈内に打ち込み、乳酸を虚血心筋内に封じ込めるのだ。
「治療効果はわかりやすく、血流再開によって通常出現する不整脈はほとんど見られず、胸痛の増強や心電図変化の増悪も大幅に軽減されます。当院では、基本的に急性心筋梗塞のほぼすべての症例に実施していて、治療後1年以内に心不全で入院してくる患者さんを見なくなりました」
高い技術を必要としない治療法だが、普及しない理由は「前向き比較対照試験」をやっていないこと。心筋細胞は一度死滅すると再生しない。効果に顕著な差があるため、対照群を置いた試験に踏み出せていないという。 (新井貴)