
「老後資金を扱った本は『40代』『50代』で準備しないと遅いと書いてあるものがほとんどです。でも、60歳で老後資金がない人は決して珍しくありません」
こう語るのは、『運用は一切なし! 60歳貯蓄ゼロでも間に合う老後資金のつくり方』の著者でファイナンシャルプランナーの長尾義弘さん。

PGF生命が2021年に還暦を迎える人を対象に実施した「2021年の還暦人に関する調査」によると、60歳時点の平均貯蓄額は約3026万円。しかし、もっとも多い回答は貯蓄100万円未満(25%)で、次いで100~300万円(10・7%)。4人に1人は老後資金どころか、貯蓄が極めて心許ないことがわかった。
「昨今は晩婚化・晩産化で『住宅資金』『教育資金』『老後資金』の三大支出が同時期に重なる傾向に拍車がかかっています。当然ながら、家計は厳しくなり、老後資金まで手が回らない。ただ、あきらめるのは早計です。現役時代に老後資金を貯めるのがベストですが、ない袖はふれません。どうしても無理なら、定年後に貯めましょう」
いくらぐらい貯める必要があるのか。2019年には金融庁による「老後資金が2000万円不足する」という試算が報じられ、激震が走った。この数字は家計調査報告(2017)「高齢夫婦無職者世帯」のデータに基づく。しかし、最新(2020年)の同データを見ると赤字は解消され、月々約1000円の黒字になっているという。
「家計調査報告は毎年少しずつ変わっています。老後資金2000万円という数字自体にはあまり意味がない。老後資金は生活費の補填という役割が大きく、必要金額は『収支のバランス』で決まります」