最近、本を書きたいという会社員から「執筆のためにどのような準備をしたのか?」という質問を受けた。いろいろなことに取り組んではみたが「何かこれを」といったものは思いつかなかった。ただある講座のことを思い出した。
2008年1月から、大阪のカルチャーセンターで、K先生が受け持っていた作家養成講座に通い始めた。K先生は当時30冊を超える小説を執筆していた。その中には映画化された作品もあった。私は小説を書けるタイプではないが、プロの作家から直接指導を受ける機会が魅力だったので1年あまりの間、月に2回休まずに参加した。
講座の当日は、事前に提出した原稿に対して先生が一人一人にコメントを与えてくれる。作品のテーマから段落や語句の使い方に至るまできめ細かい指摘がある。参加している受講生は、十数人いたので平均すると1人5分ほどの短いコメントだったが自分の番になると一言も聞き逃すまいと真剣だった。
K先生は、会社員から転身した人を紹介する私の新聞連載や、娘の就職活動をリアルタイムにルポしたネット連載には好意的な反応を示してくれた。組織で働く会社員に対して、私が抱えている課題意識もすんなり理解してもらえたように思えた。
コメントの中で「ビジネス書が一行で書いていることを小説では一冊の本にします。楠木さんの原稿は、ビジネス分野のエッセイといえますね」と評してもらったことが印象に残っている。ただ先生から返却された原稿には赤字の修正が多くて、自分の文章の至らなさを思い知らされた。