山田はもともと上体の強い力投タイプで、去年の4強の夏の消耗が激しく、秋はひじ痛から一試合も登板しなかった。復帰を目指して取り組んできたことが下半身の強化だった。
下半身主導のスタイルへの転換でこの春見事に復帰したが、モデルチェンジして日が浅いこともあり、この試合は力みも入ってバランスを崩していた。力を抜く必要があった。大胆に力を抜くというのは難しいそうだが、投げるときに込める力を70%まで落として立て直せたそうだ。この大胆なトライができたのも大橋の存在があればこそだ。
打線も山田をフォローした。2回にビッグイニングを作った。1死満塁から9番の清谷の2点タイムリーツーベースで逆転、さらに下位打線の作ったチャンスに1番の津田、2番の横田が連続タイムリー、3番中瀬が犠牲フライで続き効率よく5点を挙げた。この日は4番山田に責任を背負わせることがなかった。
この試合は計7点を挙げた打線にはつながりがあった。多賀章仁監督の備えによるものだ。前の試合でフライアウトが多く動きの少なかった攻撃陣に手を入れた。一つは打順、4番山田を軸に一番良い形をと大胆に編成した。不動の4番を中心に左右のジグザグ打線を組んだ。足の速い津田をトップに、前の試合2番の中瀬を3番に大胆起用、見事に的中した。
初戦のあと打撃練習で修正したことも生きた。フライアウトが多かったので打撃練習ではショートゴロ、セカンドゴロを打てと指示、バットを内側から出して逆らわないゴロの打球を追求させた。13安打中9本は狙い通りの方向に飛んだ。山田だけに頼らない攻撃ができた。
もちろん、この試合の勝利はエース山田の好投によるものが大きいが、全員が重要な役割を果たし山田の負担を軽くして、山田の良さも引き出している。1回戦は主に山田で勝ち、2回戦はみんなで勝利をつかんで19年ぶりのセンバツベスト8。
近江は急きょの出場で非常に難しい立場で臨んでいるが、コロナウイルス感染で辞退を余儀なくされた京都国際と同様の高いレベルの野球を甲子園で展開している。ここまでの近江の対応力の素晴らしさに敬意を表するとともにこの後の戦いがますます楽しみになってきた。