――執筆のベースになったものは何ですか
「師匠は書くことも大事にしていて、弟子には『絶対に日記をつけろ』と言っていました。前座の頃は昼間は師匠の家で働き、夜は師匠御用達の銀座のバー美弥でバーテンダーです。24時間ずっと師匠と一緒ですから、師匠の行動や気になった言葉を忘れないようにずっと書き留めていました。日記は大学ノート十数冊、メモもたくさん残りました。今では大切な財産です」
――談志さんの言葉が各章のタイトルになっています
「読者には師匠の言葉に寄り添って欲しいと思い、私しか知らない師匠の言葉をタイトルだけではなく全編に詰め込みました。師匠は取材で写真を撮られるときでも『今、談志を撮っているんじゃないぞ、歴史を撮っているんだ』とカメラマンに向かってフレーズを出すんですよ。イイこと言うなあと思いましたね」
「師匠のことを皆さん、優しいとか意地悪、無神経、乱暴とかいろいろ言いますが、私に言わせると〝面白い変人〟ですよ。やはり天才です。『天才とは質と量を兼ねたもんである』『量は質を凌駕(りょうが)する』と師匠は言ってました。いつも落語のことだけを考え、そこに集中していました。談志という大きな木の根幹には落語しかなくて、そこに知識を積み重ねるから独自の発想が出てくるんですね。私は改めて、談志師匠との縁を感じます。師匠はよく『縁があるものはついてくる』とも言っていましたからね」