「決して高いとは言えませんでしたが、彼女は音感も優れていましたが、それ以上に耳が良かった。デモテープを聞いたらすぐに歌えてしまうのです。本当に驚かされました。ボーカルだけで…、単に詞を追って歌うと、意味が分からないのか、聞いていてもちょっとおかしな感覚になるのですが、オケが入って音と一体になると完璧に歌えてしまうのです。つまり、明菜はオケが入ることで詞の世界が理解できるようになるんです、不思議でした」
ところで、藤倉のシングル制作に対する基本姿勢はアルバムと切り離すことだったはずである。「シングルとアルバムとは別物」と考えていたからだ。
「そもそもシングルで出したものをアルバムにも入れたら、アルバムに収録する楽曲数が減ってしまい、ユーザーにとっても損だと思っていました。それで僕はシングル作品は基本的にオリジナルアルバムからは外すようにしていたのです」
制作担当者としてのこだわりだった。しかも、その方向性には明菜も共鳴していた。ただ、それは「明菜の場合、シングル制作の段階から候補曲を集めているから可能だったのではないか」(音楽関係者)との声もあった。では「BLONDE」の場合はどうだったのか。原曲はアルバム収録曲だったが…。
藤倉はアルバムを改めて聴き直しながら、「確かに、アルバムの収録曲の中の1作品ではありましたが、シングルは英語詞ではなく麻生圭子さんの日本語詞でしたし、アレンジは両曲ともに中村哲さんにお願いしましたが、中村さんはまったく変えたのです。聴いてもらえば分かりますが、『THE LOOK THAT KILLS』のほうはキーを高くしていますが、『BLONDE』はいつもの明菜のキーになっています。要するに、原曲とシングルでは別物の作品という認識で制作しました」。