中森明菜にとって通算18枚目のシングルとなった「BLONDE(ブロンド)」は、洋楽にコミットメントした楽曲だったこともあって、明菜ファンの中では賛否両論だったともいわれる。しかし、エルメスのスカーフをあしらったゴージャスなボディコン衣装で歌う明菜には、やはりというべきか話題が集中した。
「『BLONDE』は結果的に洋楽チックな作品になっていたので、歌謡曲を求めてきたファンには戸惑った部分もあったのかと思います。もちろん僕自身も、それまでは〝歌う兼高かおる〟〝歌謡曲の王道〟を制作のコンセプトに据えてきたわけですから、そういった意味では方向性は違っていました。しかし、明菜も内心では冒険したいと思っていましたから。僕自身は明菜の作品では新たなチャレンジもコンセプトに掲げていたし、デビュー5年目の第1弾作品として意味はあったと自負しています。結果的にも新しい分野の開発もできましたし」
ワーナー・パイオニア(現ワーナーミュージック・ジャパン)で明菜の担当ディレクターだった藤倉克己(現フリー音楽プロデューサー)はそう振り返った。
「BLONDE」発売後の7月11日からは、全曲英語詞のオリジナル・アルバム「Cross My Palm」(8月25日発売)に連動しての全国ツアーもスタートした。ツアーと連動したこともあり、アルバムへの関心も高まり、オリコンのアルバムチャートでは初登場1位(9月7日付)にランクされた。音楽関係者はいう。
「当時のテレビの音楽番組で、アイドル歌手がアルバムの収録曲を歌う機会は少なかったのですが、明菜の場合はアルバム『不思議』も含め、スペシャル的にパフォーマンスする機会が多かったと思います。『Cross My Palm』もその年のクリスマスに放送された『ミュージックステーション』(テレビ朝日)で、『BLONDE』の原曲となった『THE LOOK THAT KILLS』を披露しています。明菜本人の強い要望で実現したのかもしれませんが…。やはり全曲英語詞とあって、発音などで苦労したようですから、生で聴いてほしいという思いもあったのでしょう。また放送と同じ日に『VISUAL BOOK Cross My Palm』とタイトルされた写真集も出ています。プロモーション的な要素もあるのでしょうが、事情は何であれ明菜にエポック的なアルバムになりました」