当然ながら、北朝鮮当局にとっては相当耳障りな存在らしく、電力事情が逼迫(ひっぱく)しているにもかかわらず、放送には必ず北朝鮮からの妨害電波が追ってくる。それだけ、当局にとって「不都合な真実」を伝えている証左だろう。
そんな放送を聞くのは、北朝鮮で暮らす人民や拉致被害者にとって命がけの行為だ。音が漏れないよう、布団をかぶって聴くという。ある脱北者は、ラジオから聴こえてきた情報のことをこう表現している。「暗闇に差す、一条の光だった」
国が「最優先課題」「オールジャパンで取り組む」としながら、02年に被害者5人が帰国して以降、実に20年間、膠着(こうちゃく)したままの拉致問題。その間に、一日千秋の思いで肉親の帰国を待つ家族は、歯が欠けるように亡くなっていく。
警察が「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者」は、実に872人(今年4月5日現在)。被害者のみなさんが出口の見えない長い長いトンネルの中での生活を強いられる間、短波にのって海を渡る声や音楽が、せめてもの光になることを願ってやまない。
「しおかぜ」の放送にかかる費用は毎月約200万円。有志の方々の寄付による自転車操業が続く。光を絶やさないために、今月18日からクラウドファンディングが始まる。詳しくは、特定失踪者問題調査会のHP(https://www.chosa-kai.jp/)をご覧頂ければ幸いである。
■葛城奈海(かつらぎ・なみ) 防人と歩む会会長、皇統を守る国民連合の会会長、ジャーナリスト、俳優。1970年、東京都生まれ。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。著書・共著に『国防女子が行く』(ビジネス社)、『大東亜戦争 失われた真実』(ハート出版)、『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。