
今春の東京大学学部入学式で、映画作家の河瀨直美氏が「祝辞」を述べた。中でも論議を呼んだのが、以下のくだりである。
《例えば「ロシア」という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。(中略)そうして自分たちの国がどこかの国を侵攻する可能性があるということを自覚しておく必要があるのです》(東大公式サイトから)

右の通り、日本を代表する国立大学で、ロシアの「正義」が語られた。著名な国際政治学者らが一斉に疑問を呈したのも致し方あるまい。
そもそも、「自分たちの国がどこかの国を侵攻する可能性があるということを自覚しておく必要がある」だろうか。留学生らを除き、「自分たちの国」とは日本国に違いない。ならば日本が、どの国を「侵攻する可能性がある」というのか。
大陸国家のロシアと違い、日本は純然たる海洋国家。自衛隊は海をわたり、着上陸侵攻できる装備を保有していない。いわゆる「敵基地攻撃能力」もない。それなのに、どこのどの国を「侵攻する」というのか。
逆に、侵攻される可能性なら、十分「自覚しておく必要がある」。北朝鮮の核ミサイルが飛来する可能性や、中国が沖縄県・尖閣諸島を襲う可能性に留まらない。ロシアによる日本侵攻の可能性も否定できない。現に、ロシア軍は宗谷海峡など、日本周辺で軍事演習を繰り返している。