しかし、金のない学生時代の4年間なら、ある意味、貧乏な時間を楽しむことができるかもしれない。ただ、その生活が死ぬまで続くことが決まりきっているとしたら、魔が差して自暴自棄になってしまうのも理解できなくはないのだ。
とはいえ、家に帰る交通費くらいは残しておけないものかと思うわけだが、寅さんが青梅に帰らない理由は他にもあった。
「チンピラみたいなとなりの住人が俺から金を巻き上げようとするからよ。住んでいるのが全員金に困った生活保護なんだからよ、トラブルが起きるのは当たり前だろうよ。だからもう帰らねえ」
ホームレスが生活保護を受け始めると、はじめはアパートではなく「無料低額宿泊所」という場所で、数カ月間、ほかの受給者たちと共同生活をすることが多い。ここも同じ理屈でトラブルが絶えず、結局アパートに移る前に路上に戻ってしまうケースが絶えない。
しかし、アパートに移ったとしても、環境は変わらないのだ。隅田川に暮らすホームレスが話す。
「生活保護を受けた知人が言ってたんだけどな。アパートの1階でサンマを焼くと2階にいる人間が突然殴りかかってくるんだとよ。そんなところに住むなら俺は路上のほうが気楽だよ」
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。2021年夏の東京都内で63日間の路上生活をまとめた新刊『ルポ 路上生活』(KADOKAWA)が話題。