円安によって不利益を被るところもあるが、それでもGDPが増加するので、そうした人たちのデメリットを穴埋めした上で、経済全体のパイを増やすことができる。それを「悪い円安」と表現することには、かなり違和感がある。利上げだけを業界のために求める金融界の意向が大きく反映しているのではないか。
米国のインフレ動向を時系列でみると、エネルギーと食品を除く指数はかなり安定している。2000年以降、今年3月までの267カ月中、インフレ目標の許容範囲である1~3%を外したのは、1%に達しなかったリーマン・ショック後の10年4~12月と、3%超になった最近の21年5月以降の計20カ月だけだ。残り247カ月は1~3%に収まっており、その比率はなんと93%である。
日本では、物の値段が総じて高くなったとはいえ、全国に先行して公表される4月の東京都区部の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で1・9%上昇、エネルギーと生鮮食品を除く総合で0・8%上昇だ。基調であるエネルギーと生鮮食品を除く総合では、インフレ目標の許容範囲1~3%にすら達していない。
本コラムで繰り返しているように、相当のGDPギャップがある中で、そう簡単にエネルギーと生鮮食品を除く総合は1~3%に行かないと筆者はみている。米国でエネルギーと食品を除く総合が3%を超えたのは21年5月だが、利上げしたのは10カ月後の今年3月からだ。日本でも、ビハインド・ザ・カーブの鉄則からは当分は利上げなしとすべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)