岩波ホールのエキプ・ド・シネマ運動の第1回上映作は1974年公開の「大樹のうた」だった。内容は充実しているのに一般の劇場では敬遠された作品は多い。今回の「ルートヴィヒ」(1972年)もその1本。
本作は長尺すぎた。劇場公開で重要なことは、1日何回上映できるか。長尺であるほど上映回数は減り、観客の入りも悪くなる。237分(完全版)は非常識なのだ。カットする、しないの問題が生じるのは当然だ。
本作は「狂王」と呼ばれた第4代バイエルン国王ルートヴィヒ2世の戴冠から死までを描く大作。岩波ホールでは80年に上映されたが、その時は「ルードヴィヒ 神々の黄昏」とのタイトルで184分にカットされたものだった。監督の没後4年がたっていた。しかし、この上映で監督への評価は一気に高まった。
「神々の黄昏」とは、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」による。ルートヴィヒ(ヘルムート・バーガー)はワーグナーに心酔し、国費をつぎ込んで彼を優遇したことで国を傾かせてしまう。さらにいとこでオーストリア皇后のエリザベート(ロミー・シュナイダー)を愛してしまい、ソフィーとの婚約を解消したり、次第に狂気をあらわにしていく。これが、かのノイシュヴァンシュタイン城の城主だから驚く。撮影もこの城で実際に行っている。