山口県阿武町が給付金4630万円を誤って振り込んだ問題で、町は約9割を法的に確保し、最悪の事態は免れた。騒動が大きくなった背景には、電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された田口翔容疑者(24)が当初、全額返還の意思を示しながら、一転して拒否したことがある。心変わりのきっかけはどこにあったのか。東京未来大学の出口保行教授(犯罪心理学)が分析した。
誤送金があった4月8日、田口容疑者は町職員とともに返金手続きのため銀行に出向いたが、入り口の手前で返還を拒否した。出口氏は「当初は返還の意思があったのではないか。だが、600円程度の残高しかなかった口座に突然大金が振り込まれ、非常に動揺したはずだ」と田口容疑者の心境を推察する。
気持ちが変化したきっかけは、車で約2時間を要した自宅から銀行までの移動時間にあったと出口氏はみる。
「移動時間が長すぎたことから、『町が誤送金したのに、なぜ相手に従う必要があるのか』と自身を正当化する心理が働いたのだろう。公金を使ってはいけないといわれると、余計に使ってしまおうと意固地になる『心理的リアクタンス』という性質も働いたのではないか」