深夜2時、バックパックを積んだ自転車を担ぎながら、私は重慶大厦(チョンキンマンション)の客引きの後ろを付いていった。宿へは1階のエレベーターを使っていくようだが、利用者の数と台数があまりにも見合っていない。エレベーター前には行列ができているが、乗れるのはせいぜい6人ほどだ。そしてマイペースな速度で17階まで登り、降りてきたときには行列はさらに伸びている。
10分ほど待ち、ようやく自分の番が訪れた。自転車を庫内に突っ込むと、申し訳ないが客引きの男以外は誰も乗るスペースがない。ターバンを巻いた中東系の男たちに見送られながら、エレベーターの扉は閉まった。
香港の裏通りを歩いていると、よくこんな貼り紙を目にする。
「中国人=400元(約7200円)。香港人=500元(約9000円)。ロシア人=600元(約1万800円)」
要は風俗店の広告だ。値段は2015年当時の記憶でしかないが、総じて中国人は安く、ヨーロッパ系は高い。また、中国人(北京語・広東語)という名目もあり、語学が堪能だと値段は上がるようだ。
貼り紙のある雑居ビルはどこも殺風景で暗く、人通りのない場所にある。店の中に入ると椅子に座ったおじさんから、「ナニジンにする?」と聞かれ、個室に移動することになる。やって来るのはネグリジェを着た女性だ。同地の風俗店は人種でも値段が決められているのである。