このところの物価上昇をめぐり、「賃金の上昇が追いつかず、実質賃金がマイナスになった」と報じられている。企業の賃上げが本格化するのはいつごろなのか、物価上昇を上回る賃上げは進むのか。
まず、賃金に関する経済理論を整理しておこう。賃金は、基本的には、労働の供給と需要によって決まる。つまり、基本的に個人の生産能力がベースであるが、労働市場の環境によって大きく左右されることもある。
その上で、労働者を採用する企業数や規模、労働市場に関する情報が不完全な場合や労使間の賃金交渉の方法の違いなども影響してくる。このうち、はじめの部分、つまりマクロ経済に関する部分のみを考慮してみよう。
名目的な賃金を上げるうえで、「労働供給」は人口などの要因で決まるので、「労働需要」が重要になってくる。労働需要は派生需要なので、経済活動に由来する。つまり、景気がよければ労働需要が増すが、景気が悪ければその逆だ。ここから、国内総生産(GDP)が増えると、失業率が低下するという「オークンの法則」が出てくる。
労働需要が満たされる状況は、失業中の人が職を得ることから始まる。その段階では、無職ではなくなるが賃金は低い。このため、名目的な賃金ですら、平均値でみると下がってみえることもある。
しかし、労働需要が増してくると、人手不足になる業者も増えてくる。となると、名目的な賃金は平均でみても間違いなく上がる。
アベノミクスは、名目的賃金を上げるまでの貢献はあった。最後の段階で、コロナ・ショックがあったものの、失業率を下げ、名目賃金が上がるまでになった。