小さなことでクヨクヨしたり、悩んだり、心が折れそうになったりすることはあるもの。しかも年をとると、できないことが増えて、自分自身に失望しそうになる。そんなとき、勇気をくれ、発想を転換させてくれる一冊を紹介したい。
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『あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎』(文藝春秋刊)は、医療ジャーナリストの長田昭二氏が5年にわたり取材してきた〝あきらめない男の努力のドキュメンタリー〟である。
原田医師は44歳のある日、激しい吐き気に襲われ、意識を失う。診断結果は「劇症1型糖尿病」。約1カ月間の入院を経て職場に復帰するが、1日3回、計4本のインスリン自己注射を続け、強い疲労に耐えながら診察にあたる日々となる。
2年後、さらに重大な事故が襲う。夜、自宅でトイレに行こうとしたときに低血糖に陥ったのだ。意識を失い階段から転落して脊髄を損傷。46歳にして重度の障害を負ってしまう。首から下でわずかに動くのは右手の親指と人さし指のみ。寝たきりも覚悟しなければならない状況で、社会復帰を志す。それも、「医師としての復帰」を。
本書で描かれるのは、劇的な回復を見せる奇跡の物語ではない。失われた身体の機能を取り戻すためのリハビリに果敢に取り組み、一つ一つ障壁を乗り越えていく。
その原動力は「自分でできることは自分でする」というシンプルな信念。それまでにできた大半のことができなくなっても、見る、聴く、話すこと、医師において非常に重要な「考えて記憶する機能」は正常だ。