黒田東彦(はるひこ)日銀総裁が「家計の値上げ許容度も高まっている」と発言し、撤回したことが大きな騒動となった。
まず黒田総裁の発言を整理しておこう。家計が値上げを受け入れる割合が、昨年8月の43%から今年4月には56%に増加したという。その理由として、新型コロナウイルス感染拡大による行動制限で蓄積した「強制貯蓄」の影響を一つの仮説として述べた。「家計が値上げを受け入れている間に、賃金の本格上昇につなげていけるかが当面のポイントだ」とも指摘した。
黒田発言は、研究成果による経済全体を見渡したマクロ経済の発言だ。それに対し、マスコミや国会は一つの分かりやすい意見をもって、それが全体の傾向だとする「ストーリー・テラー」の手法ばかりなので、そもそも反論になっていない。
最近の「物価」に関する報道でも、個別の価格上昇だけを示して、全体の物価が上がっていると説明するものがほとんどなのには辟易(へきえき)する。
個別のエネルギー価格の上昇などは、「物価」の上昇を2~3割しか説明できない。エネルギーと食品を除いた4月の消費者物価指数の上昇率は対前年比で0・8%にすぎないのだ。
「家計は値上げを許容している」という切り取り報道もあった。黒田総裁の発言は、正確には「家計で値上げを容認する割合が増加している」というもので、家計全体が容認しているとは言っていない。