幕末といえば坂本龍馬が浮かぶほどに知名度を押し上げたのは司馬遼太郎の功だ。その司馬が描いたもうひとりの傑物、河井継之助の生き方こそ、今の世にもっと知られていい。映画「峠 最後のサムライ」(公開中)を見終えて、その思いを強くした。
司馬の長編小説「峠」を「雨あがる」「蜩ノ記」の小泉堯史監督が、役所広司に主演を託して映画化した。
徳川慶喜の大政奉還により、260年余りに及んだ江戸の世が終わり、諸藩は東軍と西軍に二分、戊辰戦争に突入してゆく。越後長岡藩にとっても一大事。西洋事情に通じ、柔軟な思考の家老・河井(役所)は、「小藩といえども他を頼まず独立自尊、自らの力を信じる以外に藩の生きる道はない」と意を決した。幕府側、官軍側のどちらにも与せず「スイス」のような独立を真剣に目指す。そのために手動式機関銃のガトリング砲を横浜の貿易商から調達して、軍を鍛える一方で、和平交渉に自ら臨んだ。