ロンドン、パリなど19世紀末の都市の街角を同時代文学やポスターなどから描く本書では20世紀末の東京と二重写しの風景にそこかしこで出会う。
1889年、エッフェル塔をつくった博覧会の年にパリのモンマルトルにオープンしたムーラン・ルージュでは名物のカンカンが大流行する。大きな赤い風車のディスプレーで知られるショーキャバレー。桟敷席のそばの舞台でも色々な演芸がみられたという。フォリー・ベルジェールでは踊り子たちが賑やかな音楽に合わせて舞台に出て両脚を180度開き床につける大股開きをやりスカートをまくってお尻を見せた。
100年後、東京での90年代以降の夜のショーといえば、六本木の「金魚」や「香和」などニューハーフなどが踊り魅せるレストランシアターが流行り始めた頃。西麻布でのカウンターがエレベーター式に上下しその直前で観覧したSMショーも思い出す。眼前数センチでの洗練極致の演芸たるマジックバーの嚆矢(こうし)なら同時代の銀座。「ジョーカー」「ハーフムーン」といった超一流の奇跡が味わえる店は予約無しでは入れなかった。私も会社員時代さんざん接待に利用した。
ロンドンの世紀末では「シャーロック・ホームズの都市空間」と題された章が興味深い。ホームズの事件でしばしば使われるのは、ある人をロンドンから遠ざけておき、同地でその人に成りすまして犯罪を行うトリック。