それに対し、マネジャー氏が「最新のカメラって難しいじゃないですか」と抗弁する姿を「また言ってますね」と笑顔で見守っている。そんなチームの仲の良さが動画からも伝わってくるのだ。それは、カメラの性能だけではないだろう。
シングルCDでも、コンサートや舞台でも、そして動画でも、そこには必ず「歌」がある。坂本冬美にとって「歌」とは何なのか。
「うーん、そうねえ」と少し考えた後、訥々と話し始めた。
「今までは歌うことが当たり前でした。ステージに立つことも当たり前。でも、コロナ禍があって、この2年で歌えることのありがたさを感じるようになって。歌い手って、本当に幸せな仕事です。改めて、私には〝歌しかない〟って再認識しています」
デビュー当時、東京・新宿コマ劇場でみた大先輩、島倉千代子の舞台。そのとき島倉が歌った「生きた愛した唄った」の歌詞が頭から離れないという。
「〝私には歌がある〟というフレーズがあるんです。そのときの私は『確かにそうだけど…』という思いでした。まだ、その意味が本当には分かっていなかったんですね。デビューから35年がたって、今まで走り続けてきて、コロナ禍も経験して、今は私もそうだって実感しているんです」
だから、これからも歌い続ける。
■坂本冬美(さかもと・ふゆみ) 歌手。1967年3月30日生まれ、55歳。和歌山県出身。86年に作曲家の猪俣公章氏の内弟子となり、87年に「あばれ太鼓」でデビュー。88年から昨年までNHK紅白歌合戦に通算33回出場している。94年の「夜桜お七」がロングヒットとなり、96年の紅白は同曲で初の紅組トリを務めた。2002年に約1年間休業するが、09年にはポップス系の「また君に恋してる」、20年には「ブッダのように私は死んだ」がヒットした。9月20日からの東京・日本橋浜町の明治座公演は石井ふく子さん演出の舞台「いくじなし」と歌謡ステージの2部構成。
ペン・福田哲士 カメラ・松井英幸