平凡な生活の中、徐々にあらわになる妻の過食嘔吐。幼少期に受けたという虐待経験を背景に始まった異変は、知人からの性被害を経てさらに深刻化していく。幻覚や自殺願望にも悩まされ、陥ったアルコール依存症から40代で認知症に―。
全国紙の記者、永田豊隆さん(53)が20年にわたる凄絶な夫婦の足取りをまとめたルポ「妻はサバイバー」を4月に出版。病の当事者らを中心に「自分だけじゃない」「力をもらった」と共感を生んでいる。2018年にインターネットサイトで連載した記事に加筆した。
永田さんと四つ下の妻は知人の紹介で出会った。1年弱交際し1999年に結婚。専業主婦だった妻は手料理と笑顔で帰宅を迎えてくれた。3年後、過食嘔吐の摂食障害が明らかになった。
これまでも独りの時に過食していたが、隠せなくなった。大量の食料を買い込み、食べては吐く。永田さんは戸惑ったが、父親から受けたという暴力など幼少期のつらい体験を聞いており、「彼女を支えてきた行為」と理解するようにした。
しかし食費で貯金は底を突き、乱高下する感情の波をぶつけられる日々。永田さんの介抱もあり一時落ち着いたかに見えた病状は、07年ごろ、知人の男から受けた性被害を契機に悪化する。
幻覚や自殺願望にさいなまれるようになった妻。本人の意思に反し、永田さんは夫として医療保護入院に何度も同意した。日本の精神医療は〝収容主義〟と批判されるが、「やっと寝られる」と安堵したことも確かだ。