芸能人が自らの〝引き際〟を見極めようとするケースが相次いでいる。コンサートからの引退、最後のテレビ出演…。そこにはその人なりの〝美学〟があるのだろう。芸能文化評論家の肥留間正明氏が〝引き際〟のあり方に迫る。
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まだやれる、十分に力がある。それでも、下位力士に負けると、地位と名誉を守るために土俵を去る。これぞ横綱の引き際だ。
このほどコンサート活動の停止を公表した加山雄三(85)、最後のテレビ出演を表明した吉田拓郎(76)はまさに引き際の美学といえる。2人にはまだ十分に力が残っているからこそ、これが大事なのだ。
加山は、これまで年齢を感じさせることはなかった。芸能活動をやめるわけではないが、9月の東京国際フォーラムを最後に舞台から去る。85歳になっても疑いのない健全さを保つ若大将。それでも、動きが求められる舞台に年齢的な体力の限界を感じたのだろう。
一方の拓郎。この人ほど人間と世間に戦い続けた歌手はいない。1970年代のフォークブームを牽引(けんいん)し、ニューミュージックの世界を構築してきた。井上陽水、小室等、泉谷しげるとフォーライフレコードを創立。歌手が経営に参加する画期的な生き方を実践し、レコード会社のあり方に一石を投じた。