男性のがん罹患率1位の「前立腺がん」。比較的おとなしいがんとされるが、国内で毎年約3万人がこの病気で命を落としていることを思えば、危機感も湧いてくるだろう。そんな前立腺がんの診断と治療の最前線を丁寧に解き明かしてくれる1冊が『前立腺がんの基本と低侵襲がん標的治療』(ライフ・サイエンス刊)だ。著者は東海大学医学部腎泌尿器科准教授の小路直医師。タイトルや体裁は医師や医学生向けの教科書のようだが、サブタイトルに「患者さんのための前立腺がん専門書」とあるように、紛れもない一般向けの書籍だ。
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実際、ページをめくると、第1章の「前立腺はどこにあって、何をしているのか?」から始まり、この病気が増加する社会的背景、スクリーニングや検査法、さまざまな治療法―と、読み進むにつれ実態と医学的な対処法が自然に身に付く仕組みになっている。
中でも注目したいのが第6章の「従来の診断能を上回る新たな生検技術 核磁気共鳴画像―経直腸的超音波画像融合画像ガイド下前立腺生検とは?」。内容はこうだ。
従来の前立腺がんの生検は、事前にMRIで撮影した画像を参考に、直腸越しに針を刺して組織を採取していた。ボールペンの芯ほどの針を十数回刺して、1回でも悪性腫瘍が見つかれば、「前立腺がん」と診断される。
しかしこれは画像を見た医師の記憶に頼る部分が大きく、実際にはがんがあるのに、針が腫瘍組織を捉えることができず、がんの進行を許してしまうケースもあった。
そこで事前に写したMRIの画像情報をコンピュータ処理し、生検の際に「どこに、どんな形の病変があるのか」をモニターに映し出し、術者はそれを見ながら針を刺すことで、がんの疑いのある組織を確実に採取する方法が開発された。