1992年に救急救命士が救急現場での活動を始めてから今年で30年になる。医療資格を持った救急隊員の処置によって病院に到着する前の多くの病人、けが人が救命されるようになった。昨年10月には、新型コロナウイルス感染症でも明らかになった医療現場の人手不足、医師の過剰負担を解消するため、病院到着から患者が入院するまでの病院内での活動も法的に認められた。今や多くの資格者が医療機関で勤務し、医療チームの一員として期待されている。
▽プレッシャーの中
救急救命士は、一定の研修を受けて試験に合格した場合に特定の医療行為を認める国家資格で、病院前の救急隊員による処置の拡充と救命率向上を目的に法制化された。
東京曳舟病院(東京都墨田区)の山本保博病院長(救急医学)は当時、なかなか進まない国会審議の場に呼ばれ、持参した器具、装置で救命処置を実演したことを覚えている。
山本さんは救急救命士1期生候補の研修で指導に当たった。「各地の消防本部から救急隊員が選抜されて上京してきた。『落ちたら故郷に帰れません』という候補生もいて、勉強中のプレッシャー、悲壮感は大変なものだった」と振り返る。
1期生は合格して地元に戻っても医療機関の理解は乏しい地方が多かった。認められる医療行為は限られ、それさえも多くは無線などでの医師の指示が必要とされた。
「坂道を一歩ずつ上がるように」(山本さん)実績を積み上げて30年。今は全国ほぼ全ての救急隊で救急救命士が働き、認められる医療行為も拡大した。
▽毎年3000人近く
救急隊員が救急救命士になるための研修を受ける「救急救命東京研修所」の田辺晴山教授は、救急救命士の教育研修が充実したことで「人がなぜ倒れているかを医学的に判断できる、そうした力が現場で高まってきた」と評価する。
総務省消防庁のまとめでは、倒れたところを一般市民が目撃し、心肺機能が停止した人で、その原因が心臓にある場合の1カ月生存率は35%程度、同じく社会復帰率は25%程度まで高まっている。
近年は教育研修のカリキュラムやテキスト類も整い、大学や専門学校にも受験資格者を養成する専門の学科がある。試験には毎年2500人から3000人近くが合格。資格を取った後で消防本部に就職したり、救急隊員を目指さず医療現場で働いたりするケースが増えたという。