ビートルズもクイーンもこの男がいなければ存在せず、ボブ・ディランも影響を受けた。人気絶頂にして42歳で謎の死を遂げたエルヴィス・プレスリーの伝説を裏側から描く映画「エルヴィス」(公開中)は、ただの伝記ものでもソックリさんショーでもない。悪徳マネジャーを語り部にしたことで、ワクワクする実話サスペンスとなった。
この作品、オペラ・ミュージカル・舞台にも通じたバズ・ラーマン監督が手がけただけあって、プレスリー役に大抜擢されたオースティン・バトラーの実力は確かだ。
「監獄ロック」をはじめ往年のナンバーのパフォーマンスが素晴らしい。幼少期を米ミシシッピ州トゥロペの黒人居住地域にある数少ない白人専用住宅に暮らした経験から、ゴスペル、リズム&ブルースを吸収し、カントリーミュージックと融合させて、ロックが誕生してゆく。その過程、成長ぶりが生々しい。初期のライブに、あえて速弾きギターリフを絡ませた危険な香りづけは、女性たちをイチコロにしたシーンに説得力を増す。
人間ドラマとしての厚みが増すのは、トム・ハンクスが演じる悪名高いマネジャー、パーカー大佐(通称)が、さまざまな〝真相〟を語る場面だ。プレスリーが海外公演を封じられ、ラスベガスで歌い続けたワケや、音楽ビジネスの先鞭をつけた舞台裏での商魂のたくましさなどは、やりすぎと思えるが、類い希なるマネジャーの才能でもある。まさに大スターの光と影が明かされる。 (中本裕己)