私がマーチン・ガードナーに出会ったのは、小さい頃から大好きだったマジックに関する解説書の著述者としてだった。小学6年から読んでいた雑誌「奇術研究」の広告欄にM・ガードナー著『マッチの即席奇術』とあった。「奇術研究」は1970年代初頭で500円したから小学生の小遣いでは精いっぱい。他に買うゆとりもなく指をくわえて広告を眺めるしかなかったが、海外では素材を特定する奇術の解説書まであるのかとため息をついたもの。
彼は、一般的には「サイエンティフィック・アメリカン」誌で25年も連載が続いた名物コラム「数学ゲーム」の執筆者として著名。著述家として扱う範囲は広く、娯楽数学、マジック、パズルから疑似科学批判まで及ぶ。「aha!Insight ひらめき思考」は、解決にひらめきを要する数理パズル名作・古典のアンソロジー。翻訳書が出た数年後に新書判として再刊されたのが本書だ。
「コップの中のコイン」というパズルでは、まず「三個の細長い空のコップに十一枚の銅貨をどのコップも奇数になるように入れてみて」とのお題が出される。これは、例えば3枚と7枚と1枚など幾らでも答がある。しかし「十枚の銅貨でやはり奇数枚ずつ分けて入れられるか?」と問われると一気に難しくなる。解は「一個のコップにもう一個を重ねる」。それぞれのコップに1枚、2枚、7枚を入れて1枚入れたコップと2枚入れたコップを重ねればよい。一つの集合の一部分または全体は、別の集合に含まれて二重に数えられると解説される。