モフモフのクマの手がコンクリートの壁の穴からコーヒーやパフェを手渡ししてくれる、ユニークなサービスのカフェが人気を集めている。
店舗があるのは、近鉄上本町駅か地下鉄谷町9丁目駅をあがってすぐ。「クマの手カフェ」(大阪市中央区)の店頭には、SNSなどで噂を聞いて駆けつけた若い女性や子供連れが並んでいた。幼い兄妹を連れた若い母親は「塾帰りに2、3回来ている。クマさんがいる店にまた行きたいと、子供たちにせがまれてやってきた」という。
ユニークなのは、店舗スタッフが一切顔を見せないにもかかわらず、わずかな時間で客と交流できていることだ。クマの手がバイバイしてくれるだけでなく、握手したり、じゃんけんしたり、ギャルピースをしたりしてくれる。
「もういいわ、と思われるくらいファンサービスするのがポイント。最近は、北陸や九州、海外からも客が訪れる。癒やされているという声が思いのほか多いことが驚き」と話すのは、クマの手カフェの平村雄一郎社長。当初はクマの手のかわいさに引かれて訪れる客が多かったが、最近は社会に適応できずに悩んでいたり、気質が繊細だったりする人が約3割を占めるという。
開業は2021年9月。心理カウンセラーの養成学校を経営する「メンタルサポート総合学園」(大阪・北浜)が、生きづらさを抱える〝繊細さん〟の社会復帰を応援する場として誕生した。
かつてはファッションプロデューサーとして著名デザイナーのパリコレを演出するなど華やかな世界で活躍していた平村社長。ファッション業界の低迷とともにプロデュースの仕事が減り、一時は平村社長自身もうつのような状態に陥った。「それまでいかに勝ち誇っていたか。勘違い野郎の典型だった」
負ける苦しみを味わったことで、心の勉強をしたいと一念発起し、メンタル教育の世界へ。カウンセラー養成学校の講師を経て約17年前に独立した。
これまでに1万人近くが入学し、同校認定カウンセラーの資格を取得した卒業生が約200人。コロナ禍で東京進出を断念せざるをえなくなったとき、「仕事をしたい」という卒業生の強い思いを知り、クマの手カフェのアイデアを思いついた。
「ヨーロッパには顔に障害を持つオーナーが経営する小窓バーがあり、それを参考にした上海のカフェからもヒントを得た」と平村社長。カウンセラーが働きながら、繊細さんの社会復帰をサポートする店は、壁1枚で安心して働ける環境を作るのが目的だった。
オープン直後からユニークなサービスがマスコミで取り上げられ、SNSでも大きな反響があった。最近では、阪急うめだ本店のバレンタインフェアに出店し、期間中、8000人以上がクマの手の癒やしとかわいさを体験した。
クマの手カフェを拠点に平村社長が世の中に広めていきたいのは、「繊細さんを応援して優しい社会にしていくことと、癒やされる場所をたくさん作ること。だから、うちに来てほっこりしてほしい」と話す。
阪急うめだ本店のイベントが成功したのを受け、今後は国内外のイベントにも出店していく考え。同店でクマの手として働いたことで社会に復帰することができた繊細さんも10人を超え、活動の輪は着実に広がっている。
■橋長初代(はしなが・はつよ) フリーライター。関西を拠点に商業施設、百貨店、専門店、アパレル、ホテルなどの動向をビジネス系メディアに寄稿。取材では現場での直感と消費者目線を重視。2019年に実家のある奈良にUターン。最近は、奈良の歴史と文化に魅了され、地元の情報誌やSNSでの発信にも力を入れている。