人類で初めて火星に降り立つという壮大な冒険の実現に向けて、二酸化炭素の研究に取り組む若き化学者がいる。宇宙事業を手掛けている世界的実業家、イーロン・マスク氏よりも先に火星に…というもくろみだ。
「アメリカやロシアじゃなく、日本人が一番初めに火星に行くんだと。遅くても2045年の僕の誕生日までには、火星に降り立っている予定です」
目指したきっかけは 『宇宙への秘密の鍵』
空想や夢物語として話しているのではない。「僕にとって火星は夢ではなく『未来の歴史』。現実と齟齬(そご)が起きないよう、今の自分に求められていることを洗い出しています」と目を輝かせる。
「宇宙開拓に向けて人間の寿命を伸ばす研究をやっているので、臨床検査技師の国家資格を目指していて、夜間に医学系の学校に通っています」
小学4年でスティーブン・ホーキング博士の著書『宇宙への秘密の鍵』を読んだのが、火星を目指すきっかけとなった。
「子供向けの宇宙冒険小説で、火星の話に魅了されて何度も読みました」
子供のころから好奇心旺盛で、謎の解明に心をときめかせていたという。
「なぜかいろいろなことが気になる性格で、分からないモヤモヤを残したくなくて、大人に質問しまくるんです。学校であれば先生、博物館であれば学芸員さん。1つ1つ、知らなかった謎が解き明かされるのが面白くてたまらなかった。面倒くさくなって学校で質問せずに帰ってきたこともあったんですが、そうすると何を質問したかったのかを忘れてしまって、悲しい気分になるんです。世界の謎を解明するチャンスを逃してしまったって」
「学びは冒険」がモットーだ。7月に刊行した著書『ぼくは地球を守りたい 二酸化炭素の研究所、始めました』(岩崎書店)でも、学ぶ楽しさを感じてほしいと子供たちにエールを送っている。
「何かに絶望して自分の人生で夢をあきらめてしまっているような、どん底にいる子供たちにこそ届けたいと思って書きました。僕も小学校でいじめを受けたりしましたが、今ではワクワクが止まらないような毎日を過ごしています。生きている限り、どんな未来でも切り開けるんです」
社団法人立ち上げ邁進 世界も注目「ひやっしー」
火星を目指すためには、星を覆っている二酸化炭素対策が必須となる。学びは次第に本格的な研究へと発展し、高校2年のとき「異能vationプログラム」に応募した。総務省が行っている、奇想天外で野心的な課題に挑戦する研究を支援するプログラム。二酸化炭素吸収装置を地球温暖化問題の解決策として提案した。
「あのときは学園祭の準備と同時進行だったので、とにかく忙しかったです。徹夜して大量の応募書類を書き上げました。最終面接でのプレゼンは、人生で最も緊張した瞬間でしたね」
審査員たちからは「ぶっ飛んでいる!」と高評価。研究は「破壊的な挑戦部門」に採択された。
その結果誕生したのが、家庭やオフィスで空気清浄機のように扱えて、二酸化炭素を直接吸収する装置「ひやっしー」だ。特殊な薬品を内蔵していて、空気中の二酸化炭素だけを取り込み、酸素など他の気体は排出する仕組み。開発した「ひやっしー」を本格的に販売していこうと、東京大学在学中に、一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)を設立した。
「でも、設立したのが2020年4月7日で、コロナ禍の緊急事態宣言が初めて出た日だったんです。立ち上げた直後からオフィスに行けなくなってしまって。家賃を払うためにウーバーイーツの配達をしたり、まさに自転車操業。1日1個のおにぎりを食べながら、高級なおすしを届ける。半泣き状態でした」
どん底状態でのスタートとなったが、自動車会社からの大口注文が入ってV字回復。現在では研究に携わるスタッフも20人まで増え、国内のみならず欧州や中東から注文が入るほどに。回収した二酸化炭素を合成して石油代替燃料を生み出す研究も進めている。
「2030年までに温暖化の完全な解決を目指しています。地球を守り、火星を開拓するのが僕たちのテーマです」
あと7年。そのとき世界はどうなっているだろうか。
■村木風海(むらき・かずみ) 化学者、発明家。一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。2000年8月18日生まれ、22歳。山梨県出身。二酸化炭素吸収装置の研究で17年に総務省「異能vationプログラム」の「破壊的な挑戦部門」に採択される。21年、内閣府ムーンショットアンバサダーに就任。今年、CRRAでの研究に専念するため、東京大学工学部化学生命工学科を満期退学した。人生計画では25歳までに結婚する予定。