【マンション業界の秘密】インフレ誘導策で都心不動産はバブル状態 リフレにこだわり続ける日銀・黒田氏、今や時代遅れだが…

大都市の不動産価格は急上昇したが、物価全体を見ると実感なし(写真と本文は関係ありません)

 経済学というのは永遠に未完成な学問だ。なぜなら、過去の出来事を読み解いて未来への予測を行うのが経済学の主な目標とされているから、未来にはいつも過去にはなかった想定外の出来事が起こる。

 現在、日本で採用されている経済学の理論は「リフレ派」の唱えているもの。簡単に言ってしまうと、世の中に出回るお金(マネタリーベース)を増やせば、物価が上昇してお金の巡りがよくなり、好景気を導くという理屈だ。

 2013年の3月に日本銀行の総裁に就いた黒田東彦氏は、このリフレ派の理論を採用した「異次元金融緩和」という常識破りの金融政策を掲げ「年間の物価上昇率2%」という目標を目指すことになった。

 黒田氏の就任以来、世の中に出回るお金は約5倍に膨らんだ。ところが、いつまでたっても2%のインフレは達成できていない。日銀側は何度も目標を先送りする度に苦しい言い訳を行っている。

 モノの値段というものは需要と供給の関係で決まる、というのは誰も異論を唱えられない経済学の原則だ。それに従えば、お金の方は供給過剰になっているのだから、その価値が下がる(物価が上がる)はずなのである。しかし、ちっとも物価が上がっている様子はない。むしろ下降気味にさえ思える。

 なぜ、黒田総裁のリフレ政策は目論見通りの結果を出していないのか。

 私は大きく2つの理由があると思う。まず、日本経済は成熟しており、その主役は一般人の消費になっている。つまり、われわれがたくさんお金を使えば景気は自然によくなり、物価も上がるはずだ。

 ところが、ほとんどの人には買いたいものがない。車を持っている人は7年か9年ごとにしか買い替えない。自宅にはテレビもパソコンもエアコンもある。

 次に、日本全体のお金が増えていても、一般消費者の懐は依然と同じ。公共料金や消費税などが上がっているせいで、むしろ可処分所得は減っている。だから、お金を使いたくても使えない。

 では、黒田総裁が増やしたお金はどこにあるのか。そのほとんどは銀行の資産として眠っている。国債を買おうにも、日銀に強制的に買い上げられてしまう。企業への融資も伸びない。

 ただ1つ、黒田総裁のインフレ誘導策が成功した分野がある。それは都心や一部地域の不動産だ。彼の異次元金融緩和が始まって以来、都心の不動産市場は2%どころか、軽く40%は値上がりした。まさに局地バブル状態になったのだ。

 お金を増やしても一般消費が伸びないことを見抜いたFRB前議長のベン・バーナンキ氏は「現金をヘリコプターに積んで空からまけばいい」と唱えた。だから、彼の異名は「ヘリコプター・ベン」。

 一方、バーナンキ氏の前職同業者ともいうべき黒田氏は、ヘリコプターマネー論にくみしない。今や時代遅れとなりつつあるリフレにこだわり続けている。彼は「ヘリコプター・ハル」にはなれそうにない。

 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。