【日本の元気】森林農業からできた『明治ザ・チョコレート』 原料名見て「やったぜ!」

「明治ザ・チョコレート」(山根一眞撮影)

 最近、コンビニなどできれいなデザインのチョコレート、「明治ザ・チョコレート」を見ることが多くなった。販売されているのは8種類。薄箱のデザインは、中央に描かれたチョコレートの原料であるカカオの形は同じだが、それぞれ色使いが異なる。

 若い世代にはこのパッケージの作りやデザインがウケており、ネット上では、切り取ってしおりにしたり、千円札を入れる簡易財布にしたり、スマホケースにするなど多種多様な利用法が紹介されている。販売開始は2014年9月。累計販売数3000万個突破が物語る、今、最もトレンディーなチョコレートだ。

 私はチョコレート好きなので何種類か買ったが、それぞれ香りや味わいが異なり、なかなかおいしい。どこのカカオ豆かなと箱の裏の原料名を見て、「やったぜ!」と叫んでしまった。「優しく香る Sunny Milk」や「華やかな果実味 Elegant Bitter」に、「カカオマス(ブラジルトメアスー産カカオ豆90%以上使用)」とあったからだ。その産地、ブラジルのトメアスーは実に46年前、24歳だった私が初めて訪ねたアマゾン・パラー州の日本人移住地なのだ。以降、このトメアスー訪問は十数回にのぼる。いわば私のアマゾンの故郷だ。

 アマゾン河口の大都市、人口約140万のベレンの南約250キロ。密林が覆うこの地に日本人が移住地を開いたのは1929(昭和4)年のことだった。当初は小さな開拓村にすぎなかったが、今では海外最大の日本人移住地となり、その中心地は多くのブラジル人が住む人口3万の大きな町となっている。

 このトメアスーでおよそ30年ほど前から始まったのが、「アグロフォレストリー=森林農業」だ。農業は森林を皆伐して農地をつくり、作物を植えるのが基本。「農業」と「森林」は相反するものだが、森林農業は森林の中に作物を植える。両者を両立させる農業なのだ。

 森林農業の台頭は、90年代に入ってアマゾン熱帯雨林の著しい開発が大きな環境問題となったことも背景にある。その森林農業の提唱者であり実践者は、トメアスーの指導者で東京農業大学で林学を学んだ故・坂口陞(のぼる)さんだ。坂口さんは、自ら皆伐した広大な農地に樹木を植えて森林を復元。赤道直下では樹木の成長がきわめて早いため、わずか15年で見事な森林が再生した。

 坂口さんは、その森林内にコショウやコーヒー、そしてカカオを植えた。それらは強い日射から守られ病害に強く、腐葉土によって大量の肥料も不要。森林内の昆虫類が作物につく害虫を食べてくれるためむやみに農薬を使わずにすむ。しかも、自然に近い環境で育つため収穫物は味わい深い。

 私は、トメアスー通いをするうち、この坂口さんの森林農業を広めなくてはという思いを抱き、96年にアマゾン初の大規模な環境シンポジウム「アマゾン未来フォーラム」を2日間にわたり開催した。

 シンポジウムには農業者のほか、パラー州知事や州政府の要人などブラジル人も多く参加。アマゾン開発の反省をそれぞれが認識し、新しい農業への出発点になったのである(シンポジウム実現のため私は約1000万円近い借金を抱え返済に苦労したが)。しかし、このシンポジウムはひとつの契機にすぎなかったとはいえ、森林農業は5000家族にまで普及したのだ。

 そのトメアスー産のカカオ豆を使った森林農業チョコレートが、「明治ザ・チョコレート」の3種なのである。 =続く

 ■山根一眞(やまね・かずま) ノンフィクション作家、獨協大学特任教授。1947年、東京生まれ。獨協大学ドイツ語学科卒。執筆分野は先端科学技術、環境、巨大災害、情報の仕事術など幅広い。近刊は『理化学研究所 100年目の巨大研究機関』『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』。理化学研究所相談役、JAXA客員、福井県文化顧問、3・11大指復興アクション代表、日本文藝家協会会員。