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【定年後の居場所】名曲でよみがえる記憶「音楽はタイムマシン」 回想法が認知症を治療 (2/2ページ)

 また新聞の下段に大きな広告を出していた「思い出の~~」というタイトルのCDも何度か購入した。ただCDでは前の曲が終わったときに次の曲のイントロが頭に浮かんでしまうので興ざめになる。やはり予想もしない曲が飛び込んでくる方がエキサイティングで思い出にもつながりやすい。

 定年まじかになった会社の同僚と、「懐かしの歌謡バー」で好きな曲をリクエストすることもあった。カラオケではなく、オーナーが当時の歌が好きで昔からレーザーディスクで集めていたものを店で投影している。机の上のリクエスト用紙に鉛筆で書いて店の人に渡すという昭和のシステムである。大阪のビジネス街で当時の曲を流している定食屋もある。

 昔の記憶を蘇らせることはライフレビューや回想法と呼ばれ、認知症の治療にも使われる方法だそうだ。過去の体験や出来事を振り返ることで、何気なく過ごして来た人生の意義を深く見出す経験にもなる。昔好きだった曲を聴くと、急にそのころのドキドキワクワクした感情が戻ったり、思い出がよみがえる。そうすると脳がそのときの状態に戻るそうだ。

 面白いことに私は過去の記憶と結びつくのは25歳までに聞いた歌に限られている。具体的には1979年の『いとしのエリー』まで。それ以後の曲では思い出と結びつきにくくなる。誰とも話さずに終日ずっと曲を聴き続けていると10代の頃の自分に戻ることができる。こんな手軽なタイムマシンはないのである。

 ■楠木新(くすのき・あらた) 1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。50歳から勤務と並行して取材、執筆に取り組む。2015年3月、定年退職。現在、神戸松蔭女子学院大学教授。人事・キャリアコンサルタント。25万部を超えるベストセラーになった『定年後』(中公新書)など著書多数。20年1月に『定年後のお金』(中公新書)を出版。

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