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【トップ直撃】情報の「外れ値」を読み解き「大戦略」を提示 未来への戦略を日々模索する 「IISIA」原田武夫社長

 国際環境は激変し、グローバル社会が発達する中、日本は先人たちが残してきた道に安住し、国家のビジョンが希薄になりつつある。外交官時代に痛感した「国家」の重要性を指摘し、現代日本に欠如する「グランド・ストラテジー(大戦略)」を提示すべく、独立系シンクタンクを率いる。氾濫する情報群を読み解く方法を提示し、国際社会から期待される日本の役割を果たすため、未来への戦略を日々模索している。(海野慎介)

 --日本には海外のようなシンクタンクがないと指摘しています

 「他の国では基本的に富裕な実業家が高等教育に寄付を行った結果、研究所や財団が作られます。わが国の場合、政府の意見を代弁する政府系機関や金融機関の付属としてあるに過ぎません」

 --米ペンシルベニア大ローダー研究所による世界のシンクタンクのランキングで、「注目すべきシンクタンク」のカテゴリーで31位でした

 「中小事業主を中心に現在900人ほどの会員に調査分析リポートを提供しています。また、営利事業として資金を自分自身で作り、『未来シナリオ』を公表し、議論を展開するとともに具体的な社会貢献事業を行うところに特徴があります」

 --「未来シナリオ」とはどういうものですか

 「AI(人工知能)による機械学習は一定の振れ幅の中のデータを扱います。金融市場も一定の範囲内で株価が動くのが大体のパターンです。ただ、世の中、地震や新型コロナのパンデミック(世界的大流行)など『外れ値』が起きます。世の中の公開情報を読み解いてこの可能性を指摘するというものです」

 --顧客層は中小事業者が多いそうですね

 「金融資産2000万円ぐらいから1億円未満のいわゆるアッパーマス層です。中小事業主は自分でものを考え、独特の風を読む鋭敏な感覚の人が多いのですが、多くの公開情報がある中で、確証を得るために使われているのだと思います」

 --公開情報を正しく読む秘訣(ひけつ)は

 「定点観測と比較です。毎日同じ時間帯に、新聞なら主要5紙など同じ数のメディアを見る。そこで特定のメディアだけに書かれていることが『外れ値』で、これが次のトレンドを作る可能性があります。日本人は皆が書くことに合わせるのが好きですが、情報リテラシーの世界では、『そうでないことは何か』を探すことが重要です」

 --外務省を退官後、研究所を設立した経緯は

 「外務省では2003年から05年まで北朝鮮班長を拝命していましたが、北朝鮮外交の最前線に携わる中で、わが国にないものが他の国にはあると認識しました。インテリジェンス(情報)機関の存在です。6カ国協議など外交の裏には機関の活動があるわけです」

 --現在の国家観につながる経験も

 「ドイツ在勤時の1997年、東欧のアルバニアが経済破綻して暴動が起きました。首都ティラナのドイツ大使公邸に逃げ込んできた在留邦人をどう救出するかという話になったのですが、ドイツはアドリア海に展開していた空母からジェットヘリで特殊部隊を飛ばし、大使公邸の上でホバリングさせ、銃撃されながらも救出してくれました。日本とNATO(北大西洋条約機構)の協力の一環で、外交はすごいと思ったのと同時に、国家がなければ、日本人は多くのものを失うことにも気付かされました」

 --現代の日本人に欠けているものがあると考えているそうですね

 「過去の正確な記憶や認識と、それに基づくグランド・ストラテジーです。戦後、国際社会に復帰し、日米同盟の中で輸出戦争を勝ち抜いて富を築いてきた。こうした戦略を考えてきた戦前世代が減り、誰も記憶しなくなることは問題です」

 --国際社会で日本への期待は

 「国際社会から日本のあり方は割といいのでは、という声が、事あるごとに聞こえてくるようになりましたが、それを一番知らないのが日本人です。外交官として経験しましたが、日本のパスポートほど世界各国で受け入れられる国はありません。日本は自身の立場を認識して役割を果たしてほしいというのがグローバル社会からのメッセージです。著作に『一生「外交官」でありつづけるつもりだ』と書きましたが、今もそのつもりです」

 【外交官】父が船舶保険関連の事業を手掛けていたことが海外に目を向けるきっかけになった。1980年代の円高不況で大企業の破綻を見聞きする中で「なくならない企業がいい」と思い、政府関係の仕事を目指した。「この2つを重ね合わせたところが外務省でした」と振り返る。大学在学時は日米貿易摩擦が激化していた時期で、「日米交渉の最前線に立ちたいと思う気持ちがありました」。

 【興味のあった分野】小学生当時からNHKのドイツ語講座で学び始めた。高校時代に習った生物学も印象深く、「『人はなぜ生きるのか』と考えたときに、どんなお金持ちも偉い人も、結局、次の世代を残す以外にない。未来にバトンを託すしかないと思った記憶があるんですよ」

 【印象に残った本】原書で読んだドイツの作家、トーマス・マンの『ブッデンブローク家の人びと』。ドイツ北部リューベックの富裕な商家の3代の歴史を描く。「自分の手足で未来や富を作り出して世の中を良くしようと努力する市民の姿を描いています。私の考える政治のあり方の原点です」

 【健康法】知人に習った「食養学」。「知人の先生が教えてくれるんです。自律神経を自分の意志でコントロールできるかです。調子が悪いときには自律神経がどちらかに傾いていますが、頭で考えるのではなく、身体の中のバランスをどう取るかということを学びました」

 【今後の国際情勢】注目点は米国のアラブからの決別。「米国はイスラエルやサウジアラビアと盟友ですが、イランとの関係を元に戻そうと動く可能性があり、米国は仲介役を中国にお願いしている可能性もあります」

 東アジア情勢では、今後2~3年間に相対的安定期が訪れた後、中国が4分裂するとの見方を示す。

 毛沢東以来、習近平国家主席に至る勢力が支配する華北と、米国などがコミットするビジネス中心の地域が華南、さらに中国東北部、ウイグル族などの少数民族に分かれてゆくことが想定されるという。「来年の北京冬季五輪の時期が契機になり、中国共産党による一党支配ではなく、大きく分割されていく動きが始まる可能性があるのではないかと思います」

 【会社メモ】独立系シンクタンク。所在地・東京都千代田区。市場や国内外情勢の分析に基づく「未来シナリオ」を提示し、「パックス・ジャポニカ(日本の平和)」実現のために活動を展開する。主に全国の中小事業主を会員とし、音声やテキストによる調査分析リポートの提供やセミナーを実施し、教育活動、経営コンサルティングなどを手掛ける。会員制サービスは5つのコースがあり、個人向けは月1万6500円(税込み)から入会できるパッケージもある。売上高は非公表。従業員数32人(2月末時点)。

 ■原田武夫(はらだ・たけお)1971年12月生まれ、49歳。香川県出身。東大法学部在学中に外交官試験に合格し、93年に外務省入省。在ドイツ日本大使館勤務などを経て同省アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)時代に日朝外交に携わる。2005年自主退職、原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)を設立する。17年に国際商業会議所(ICC)メンバー、21年に代表を務める団体がローマ教皇庁と世界の投資・ビジネスリーダーによる国際協議体に加盟。東大教養学部でも単位認定ゼミを受け持つ。

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