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【BOOK】世間の価値観に流されない核みたいなものを見つけた 藤沢周さん『世阿弥最後の花』 (1/3ページ)

 鄙(ひな)びた田舎から都会までを舞台に幅広い作品世界を発表している藤沢周さん。新作は中世、佐渡島に流された72歳の世阿弥を主人公に描いた。「書いているときは世阿弥が憑依したような」という藤沢さんに聞いた。 文・竹縄昌 写真・鴨志田拓海

 --700枚超えの長篇となりました

 「書き上げたなあ、という感じです。自分も還暦を過ぎて老いていく一方なんですけど、現代社会の流れはめまぐるしく、成果主義経済に人々が翻弄され、政治もだらしない。そのなかで“老い”ならではの価値というか大事なものをみつけていかなければならないな、と思ったところが世阿弥の晩年と重なりました。この作品を書いたことによって、世間の価値観に流されない核みたいなものが見つかった気がします」

 --執筆は2年がかり

 「6年ぐらい前から書こうと思っていたのですが、一昨年、佐渡島の正法寺に保存されている世阿弥の雨乞いの面を見たとき、『それは、父観阿弥の形見…』、という何者かの声が聞こえたような気がしたんです。先立たれた(後継の)元雅の霊をワキ、世阿弥をシテとする、夢幻能と逆の構造にすればできると思い至って、一気に書きはじめたんです。昨年、大学を辞めて執筆に専念しました。世阿弥が憑依したようでした」

 --作家を目指そうと決意した場所が地元・新潟市内野の海岸。そのときに佐渡島が見えたとか

 「やはり新潟の人間にとってはすごく馴染みのある場所ですが、行くたびに毎回自分が試されているようなところでもあるんです。磁場が強くて、霊的な力を感じる。長い歴史があって、さまざまな先人が文化を築いて生きて、それが沈殿しています。自然がすごく豊かですから、(草木などの)ひとつひとつに神が宿っているような神秘な島でもあるんです。ある種の結界のような場所で、島に近づくと厳粛な思いになります」

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