今回は少し目先を変え、女子向け商品。アサヒ玩具から1969(昭和44)年に発売された「ママレンジ」である。妹がいた私の家にはこの商品があり、子供心に「オンナとは変わったもので遊ぶいきものだ」と思ったきっかけのような商品である。
価格は2500円。消費者物価指数で現在の価格に直すと約8200円もする。台所のミニュチュアと考えればこんなもんなのかもしれないが、「おままごと」の道具と考えると、高いというか、ようやるわというか。だが、そんな心配もよそに、この商品は、1年で17万個以上販売されるヒット商品となった。
同シリーズで、1975年に「ママナガシ」という、より台所チックな商品が発売された。たぶん、これも家にあった。「そんなに家事がしたいんかい!」と突っ込みたくなるほど奇妙な商品群だったが、「男が外で稼いで、女は家で家事をする」という当時の風潮からすれば、素直に「かわいらしい」商品であったのだと思う。
しかし、電熱があったり、子供に「口に入れるもの」を作らせるなど、これも今の価値観からすれば、クレーム・リスクが漂う商品だ。だが、そこはおおらかな昭和の風情。そういう私も、妹が作ったホットケーキ状の小麦粉の塊を食べさせられながら、それはそれなりに楽しかったのを何となく記憶している。
昔の女子、われわれと時代をともにした「同伴者たち」はこの商品をどんな思いで眺めていたのだろうか。ちょっと聞いてみたい。そんな商品である。
■中丸謙一朗 コラムニスト。1963年生まれ。幼少期は小倉、青春期は横浜で暮らす。好きなアニメは『アパッチ野球軍』。著書に『ロックンロール・ダイエット』(扶桑社刊)他。