東京のマンションを東アジアを中心とした外国人の富裕層が買っている。具体的に物件の購入者の何%が外国人なのかは分からない。それを公表することで、資産価値に好ましい影響があるとは思えないから、売主企業もあえて数字を出さない傾向にある。
しかし、業界内では「あのマンションは3割が外国人」のような話は漏れ伝わってくる。実際に住んでみるとエントランスホールなどで、外国語の会話を聞くことになることもあるだろう。駐輪場やゴミ置き場で、マナーの悪い行状を目にするかもしれない。
今後、特に都心では外国人の区分所有者は多くなりそうだ。彼らにとって、日本のマンションは決して高い買い物ではなくなっている。
現在、都心と湾岸エリアの市場は“ミニミニバブル”状態だが、目をアジアに転じると、東京の物件は割安に見えてしまう。
日本不動産研究所が出した資料によると、東京・元麻布の高級マンションを100としてアジア各地と比較したところ、上海で129、香港で213、台北163、シンガポール145、ソウル73という指数になった。ソウル以外は軒並み高い。ちなみにロンドンは323、ニューヨークは155だ。
日本に暮らしていると、元麻布の物件は目をむくほど高額だが、香港と比べると半分以下ということになる。
これは果たして実力相応の価格なのか。
1人当たりのGDP(国内総生産)は2013年のデータでシンガポールは日本の1・4倍だから、実力相当かもしれない。
香港は日本とほぼ同レベルなので、かなり割高だが、土地が狭いので仕方がないところもある。
中国は日本の5分の1以下なので、上海が東京よりも高いのは不自然に思える。だから今、バブルが崩壊しつつあると報道されている。
台湾は日本の半分ちょっと。いずれ値崩れがやってくると考えるべきで、韓国は日本の7割弱だから実力相応ということになりそうだ。
ロンドンはどうか。不動産市場の一部はバブル化しているというが、英国の1人当たりのGDPは日本とほぼ変わらない。聞くところによれば、ロンドンの、ある高級住宅地に住んでいるのは、ほとんどが外国人の富裕層という。
日本の不動産は、お金さえ払えばどこの国の人でも買える。しかも、所有権の保護は世界最高水準。それでいて、アジアの代表的な都市よりも割安だ。この魅力につられ、今後もアジア系外国人の購入は増えるだろう。しかし、東日本大震災直後の放射能不安のような事態になったり、購入者の国の経済が急激にダウンしたりすれば、一斉に売られる可能性がある。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。1962年、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる。不動産会社の注意情報や物件の価格評価の分析に定評がある(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収200万円からのマイホーム戦略」(WAVE出版)など。