−−再生のためにどういう手を
「選択と集中です。本業とシナジー効果のない事業は全部切った。おやじ(康男氏)が創業した試薬品メーカーのヤトロンは超優良メーカーでしたが提携先に譲渡し、50年近く売られてきた『クララ』も社内の大反対を押しきって販売中止、ブランド拡張を狙い『龍角散ダイレクト』に切り替えました。一方で、当社の商品は宿命として単価が低い。マーケティング的には幅広く置いてもらい、広告で引っ張るプル戦略でいくしかない。1品目あたり3億円を目途に広告費を投入、売り上げ増を図り、借金を減らしていったのです」
−−その過程で嚥下(えんげ)補助ゼリーなどヒット商品が生まれた
「入社すると、全国を回って愛用者の声を聞いた。龍角散は生薬で、持病のある人も妊婦も副作用が少なく安全だとか、水無しで飲めるとかの評価を得て、この特長を生かすべきだと考えました。そうした折、開発会議で『子供やお年寄りなど薬が飲みにくい人がいる』『水ではダメだがゼリーなら大丈夫だ』という話が出た。女性薬剤師からで、それなら自分で開発してみろと。こうして99年に『嚥下補助ゼリー』を発売。現在、小児用も含め『らくらく服薬ゼリー』シリーズとして約10億円の売り上げに成長しています」
−−今後の課題は
「急激に売り上げが伸びていますが、逆に危険なので社員を厳しく鍛えています。あと10年間しか社長をやらないつもりなので、トップダウンで牽引してきた私がいなくてもいいように組織の信頼性を上げたいと考えてのことです。そのうえで余計なお金は稼がず、全ては社会貢献のために…の社是を完遂したいと考えています」
【音楽と経営】
「金もうけのために演奏するような者にろくな演奏はできない。あくまでも、聞きに来ていただいている方に、どういう演奏をすれば感動していただけるか、それが基本にないと受け入れられない」と断言する。
「企業も同様。製薬企業の誇りは『売り上げが何倍になった』『これだけもうかった』ではなく、うちの薬によってどれだけの人の命をつなげたかにある。社員も、私もそれゆえに頑張れるのです」