今年の中国の軍事費は前年比7〜8%増の見通しで、国際批判はどこ吹く風だ。どうすれば習近平政権による軍拡を止められるのか。
中国で軍事とカネは建国前から一体となっている。中国共産党が1949年の建国前に真っ先に創設したのが人民解放軍と、占拠した「辺区」と呼ばれる解放区ごとの発券銀行である。中央銀行である中国人民銀行は48年12月、乱立していた辺区銀行を統合して発足した。
今では人民銀行が元を1追加供給すれば現預金はその5倍以上の規模で増える。この乗数は、異次元金融緩和の日本の場合、0・4に満たない。米国でも量的緩和期で1程度だった。
グラフを見ると、このマネー増殖が軍事費の膨張と密接に関連していることが見て取れる。中でも、人民銀行の資金供給が加速したのが2008年以降である。それを支えたのが同年9月の「リーマン・ショック」後に米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策である。大量に刷られたドルとほぼ同額が中国に流れこんだ。人民銀行は外貨を買い上げて外貨準備(外準)とする一方で、人民元を刷る。
ところが、15年にはマネー変調が起きた。主因は前年秋の米量的緩和打ち止めである。15年からはドルの米国へのUターンが始まった。人民銀行は資金供給を減らさざるをえない。外に逃げる元を買い支えないと、元相場は暴落する。人民銀行は外準を取り崩すしかない。軍拡を支えるマネー膨張の方程式はもはや成り立たない。どうするか。 習政権が取ったのは、元の国際通貨化である。国際的に受け入れられ、通用するカネになれば、北京は元を刷って軍事技術をロシアなどから入手できる。中国に武器を売りたい欧州各国は人民元決済受け入れに積極的だ。