既製品が安く買える時代に、注文服の小売りで成功している会社がある。東京・神田に本社がある「佐田」の応接間。見るからに高級そうなスーツで身を包んだ佐田展隆さん(42)は、オーダースーツの直営店を全国展開している会社の社長だ。
「同じ値段で体にフィットするオーダースーツが作れるなら、全員ではないにしても、オーダーのほうがいいよという人は必ずいるんです」
波瀾(はらん)万丈のビジネス人生だ。一橋大学を出て東レに入社。多くの新人が炭素繊維など新素材の部門を選ぶ中、佐田さんは「一番しんどい部署」を希望し、テキスタイル営業に配属された。ファッション関係のメーカーに生地を売る仕事だ。
「在庫の山を処分するのに苦労しました」
東レに4年勤めたところで、実家から「戻ってこい」との電話。家業はオーダースーツの製造卸をしている会社で、大手百貨店そごうの下請け工場だった。バブル崩壊後、そごうが倒産。実家も売り上げが半減、巨額の借金を抱えていた。
佐田さんが考えた起死回生策はオーダースーツの小売り。直営店で注文を受け、中国で作って日本市場で安く売るというビジネス。この路線転換が功を奏し、業績はV字回復。金融機関との話し合いで「借金は棒引きとなった」が、その過程で簿外債務が明るみに。「結局、その責任を取らされる格好で」2008年、佐田さんは経営から身を引いた。
またサラリーマンに逆戻り。経営コンサルタント会社に転職して「それなりに楽しくやっていたら、当時の社長から帰ってきてくれませんか」という電話が入った。東日本大震災で仙台工場が被災し、またもや赤字に転落していた。