「3坪の奇跡」といってもいいのではないか。大手コーヒーチェーンの店が乱立する時代に、わずか3坪のスペースで、しかも紅茶だけの店を10年も続けているなんて。
東京・千駄ヶ谷の紅茶専門店「モンマスティー」。注文カウンターがあるだけでテーブル席はない。店主の柏井慶一さん(58)は、タバコ会社の社員だった。35年前、ホテルの専門学校を出たが、「バンドをやっていて、就職せずに渋谷にあった紅茶の店でアルバイトをしていた。そこのアイスミルクティーが最高にうまかったんです」
ミュージシャンを目指していたが、プロの道は厳しく「このままじゃダメだな」と就職したのが外資系の「フィリップモリス」。主な仕事は、タバコのPOP広告をJRや私鉄の駅などに貼ったりする販売促進だった。「本社から外国人がきてリストラの噂が流れたり、取引先のことで上司と衝突し」2004年に退職。次の仕事を模索していたときに、「たまたま担当していたキオスクのオバサンの仕事ぶりを見て、僕もああいう小さなお店をやろうと」
退職後、「店名を決めるために」英ロンドンへ行った。小さなコーヒーショップへ入ったとき、「英語もしゃべれない僕に、小っちゃいカップでコーヒーを出して親切にしてくれた」ことが忘れられない。モンマス通りにある店だった。