【元文春エース記者 竜太郎が見た!】難しい“暴走少年”への指導、日野皓正の往復ビンタに批判殺到 少年は感謝「愛があった」

子供の成長に必要なこととは? 

 Whiplash、鞭で打つこと。大ヒット映画「ラ・ラ・ランド」のデミアン・チャゼル監督の出世作「セッション」の原題だ。

 物語は、才能あふれる19歳のジャズドラマーが名門音楽大学に進学し、そこで出会った鬼教官に猛烈にしごかれ成長するというもの。屈辱的な言葉が飛び、テンポがずれると頬を殴られる、理不尽な暴力を受けながら特訓を続けるシーンはこの映画の肝といっていい。

 “世界のヒノテル”、ジャズトランペット奏者の日野皓正(74)が、ジャズコンサート中にドラムを演奏した男子中学生に往復ビンタした事件を見て、この映画の場面が思い浮かんだ。

 コンサートは東京都世田谷区教育委員会主催の体験学習で8月20日に行われた。区内の中学生が4カ月間、ジャズを練習し、その発表である晴れの舞台だ。公開された動画を見ると、件の少年はソロパートで激しいドラミングを続け、指揮を取っていた日野が彼のところまで歩み寄り、スティックを奪い取ると「バカヤロー!」と一喝。日野はその場を立ち去ろうとするが、少年は指導を無視して、素手でドラムを乱打。踵(きびす)を返した日野は彼の髪をつかんで前後に揺らし、反抗的な彼に「なんだ、その顔は!」と往復ビンタしたのである。

 この騒動を受けて、教育者をはじめ多くの識者から「いかなる場合も暴力は絶対にだめ」という批判が相次いだ。しかも観客の前だから言語道断だという。この騒動に乗じて、教育委員会や世田谷区政を問題視する動きもある。

 言わずもがな暴力は絶対に許されない。罰として行われる身体的暴力行為である「体罰」は教育的指導ではなく、学校教育法でも禁止されている。しかし、件の少年が他の生徒に回さなければならなかったソロパートを、見せ場を独占しようと暴走したのは事実。制止しなければ彼の独演会になり、みんなで一生懸命練習してきた他の生徒たちはそれ以上に悲しい思いをしたに違いない。

 「行き過ぎたことはわかる。それは謝る」、報道陣に囲まれこう話した日野。一方でテレビ取材に応じた少年は「(日野さんには)愛があった」としかられたことに感謝し、その父親も「息子が悪かった」と話した。誰もが頭を悩ませる子供の教育と指導方法。あの状況でどうすればいいのか。自分ならばどうするか。みんなで考えてみたい問題である。

 ■中村竜太郎(なかむら・りゅうたろう) ジャーナリスト。1964年1月19日生まれ。大学卒業後、会社員を経て、95年から文藝春秋「週刊文春」編集部で勤務。NHKプロデューサーの巨額横領事件やASKAの薬物疑惑など数多くのスクープを飛ばし、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞受賞は3回と歴代最多。2014年末に独立。16年に『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ』を出版。