【産経プラスコラム】マツモトクラブのマツモトコラム(1)

アキラ100%さん、R-1優勝おめでとう

 舞台の上では、優勝したアキラ100%さんが、まぶしいほどに光り輝いていた。R-1ぐらんぷり2017。

 同じ事務所の先輩、大好きなアキラさんが輝いている。アキラさんおめでとうございます。心から祝福します。だけど僕は、やっぱり悔しいです。それはもちろん、僕も優勝を目指していたからです。

 悔しさとふがいなさと寂しさの中、僕はスタジオに立ちつくしていた。

 終わった。決勝Cブロックでの自分の敗退が決まった瞬間から、絶望的などんより雲が、僕の頭上に広がった。どこで何をしていようが、しばらくはずっと、このどんより雲と共に生きることになるだろう。そう考えると、どんより雲はさらに大きく、そして濃い灰色になっていった。

 僕のあまりのどんより雲ぶりに気がついたルシファー吉岡さんが、僕と同じように負けて、悔しいはずのルシファーさんが、僕に声をかけてくれた。

 「マツクラさん、面白かったですよ!」

 ルシファーさんにはこの数年の間、いろいろなライブやイベントで一緒になり、良きライバルとして、飲み友達として、そしてエロおじさん同士として、切磋琢磨しあってきた特別な思いがあった。そのルシファーさんもBブロックで敗退していた。ルシファーさんももちろん、優勝したかった。ルシファーさんの悔しさも、ものすごいはずだった。そのルシファーさんが言葉をかけてくれた。

 「マツクラさん、面白かったですよ!」

 「いや、ルシファーさんもですよ」と、言いたかったのに「いや…」までしか言えなかった。泣いてしまいそうだったからだ。

 収録は終わった。スタジオから楽屋まで戻る廊下の両脇に、たくさんのスタッフさんや関係者の方々が立っていて、その前を通って楽屋に戻って行く僕たちに、みなさんがそれぞれにキラキラの笑顔で「お疲れ様でした!」「ごくろうさん!」と声をかけてくれた。

 その言葉の一つ一つが、どんより雲の真下にいる僕の胸の温度を上げていき、その温かさが鼻の奥のほうにじわじわ伝わり、また涙の雨がこぼれそうになった。すでに涙目にはなっているかもしれない。だから下を向き、顔を見られないように、楽屋までの道のりを少し早足で歩いた。

 楽屋に着くと、マネジャーが立ち上がり、拍手をしながら「お疲れ様!」と言った。いろいろと手伝ってくれた後輩芸人たちも、笑顔で拍手で「お疲れ様でした!」「良かったですよ!」と言った。鼻の奥のじわじわが急激に目に伝わり、デカイ一粒がこぼれ落ちそうになった。もしかすると、こぼれ落ちていたかもしれない。

 R-1ぐらんぷりという3カ月にわたる長い戦いが終わった今、目に映る人たちすべてから温かい何かを感じてしまい、誰も視界に入らないように下を向き、忙しいフリをしながら衣装を脱ぎ、涙を見せないように帰り支度をしていた。

 「この傘、どうしますか?」

 予選の間からずっとそばで手伝ってくれた(ふみつけ大将軍の)小仲君が言った。小道具で使っていた傘だ。僕は、もしかしたらほおを伝っているかもしれない涙を見られないように、小仲君の顔を見もせずに「あげるよ」と言った。

 「…ありがとうございます! マツクラさんをR-1の決勝まで導いてくれたスゴイ傘なので、M-1の予選の時持っていきます!」

 …いちいち涙を加速させやがる…。若ハゲ漫才師め。

 帰り支度を整え、たばこに火をつけた。ルシファーさんが隣に来て、ルシファーさんもたばこに火をつけた。しばらく無言のまま、お互いにただ、ため息エキスがたっぷり入った煙を吐いていた。

 やがて「いやぁ、危なかったです」とルシファーさんが言った。

 「何がですか?」 僕が言う。

 「僕、ちょっと気ぃ抜いたら泣いてしまいそうでした」と言ったルシファーさんの目に涙が溜まっているように見えて、すぐにその変な顔から視線をそらした。

 「びーちぶ、行くんですか?」

 僕の視界の外でルシファーさんが言った。

 「行きます。僕はこんな結果だったので、びーちぶのみんなからたくさんダメ出しされちゃいそうですけど、みんな待ってくれてるんで。ルシファーさんも一緒に行きますか?」

 びーちぶとは、僕が所属する事務所の持ち小屋で、その劇場で、同じ事務所の先輩や後輩たちが待っている。バイきんぐさんがキングオブコントで優勝した時も、去年のR-1でハリウッドザコシショウさんが優勝した時も、だーりんずさんがキングオブコント決勝であまりふるわなかった時も、お笑いの賞レースで事務所の誰かが決勝に行くと、必ずびーちぶで、おじさん芸人たちが集まって、決勝が終わって帰ってくる芸人を待っている。優勝しようがしまいが待っている。今年の優勝はアキラ100%さん。2年連続でR-1のトロフィーがびーちぶに持ち帰られる。

 「僕も行っていいですか?」

 「もちろんです」

 僕たちは決勝の地、お台場フジテレビをあとにし、通い慣れた千川、びーちぶに向かった。優勝したアキラさんは、まだいろいろと取材が残っているので、僕とルシファーさんだけが、先にびーちぶに到着することになる。

 タクシーの中の僕とルシファーさんはお互いに無口だった。携帯をいじり、たくさん来ていたメールやLINEの返信をしたり、窓の外をぼーっと見たり…。

 びーちぶのみんなは、僕がCブロックで負けてしまったこと、なんて言うのだろう?

 『マツクラなんであのネタやってん?』

 『もっとええネタあったやろ?』

 『お前ネタ選びミスったなぁ』

 とか言われちゃうのかな? いやだなぁ…。

 まだ言われてもいない、びーちぶにいる先輩芸人からのダメ出しを勝手に想像して、勝手にふてくされているうちに、こぼれ落ちそうになっていた涙は何処かにいってしまって、どんより雲だけが、僕の頭上に停滞していた。

 びーちぶに着いた。びーちぶの扉を開けると、階段の下の方から笑い声が聞こえてきた。ルシファーさんと2人でびーちぶの階段を降り、みんなが集まっている客席に到着した。

 「おおっ!!」

 「きたーーーっ!!」

 「マツクラだー!!」

 「ルシファーさんっ!!」

 「おつかれーーーーーっ!!!」

 「サイコーだったよーー!!!」

 「よくやったマツクラ!!!」

 「ルシファー凄いっ!!!」

 「カッコよかったぞ!!!」

 「おつかれさーーーん!!!」

 何十人ものおじさん芸人たちからの祝福の嵐に僕たちは包まれた。涙が溢れ出た。溢れ出て止まらなかった。

 「おい!! マツクラが泣いてるぞ!!」

 「えっ?! ホンマやっ!!」

 「ハハハっ! なんで泣いてんねん!!」

 「みんな見てみろー! マツクラが泣いてるぞーー!!」

 僕は、お笑いが好きだ。どんより雲は嵐に飛ばされ何処かに消えた。

 さぁ 行こう。

         ◇

 このコラムは2017年3月8日にニュースアプリ「産経プラス」に掲載したものです。産経プラスで好評連載中の【マツモトクラブのマツモトコラム】は隔週土曜日更新です。産経プラスのダウンロードはこちらから↓。

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