【ぴいぷる】熱量のドラマづくり、映画監督・若松節朗氏「俳優と同じにならないと、いい芝居撮れない」

若松節朗監督

 巨大航空企業の内幕と会社に翻弄される個人を描いた『沈まぬ太陽』、山一証券破綻後に原因究明や清算処理にあたった社員らの奮闘を追う『しんがり ~山一證券 最後の聖戦~』…。社会性の強い骨太な作品で、メガホンを取ってきた。

 昨年12月までWOWOWで放送された最新作の『石つぶて ~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~』は、実際に起きた外務省機密費詐取事件を題材にしている。巨額の公金をだまし取り、私的流用した外務省のノンキャリ職員を追い詰める警視庁捜査二課の刑事たちを描き出した。

 「聖域」とされる機密費をめぐる事件に切り込んだドラマに対し、これまでにない反響があったという。

 「普段ものすごく厳しいことを言う方が、『久しぶりにいいものをやってるな。俳優たちがみんないい。それは監督がいいからだ』と褒めてくれたんです。『あっ、まだ(自分は)イケてるのかな』と思いました」

 俳優の良さを引き出す姿勢は、撮影場面にもよく現れている。物語のクライマックス、刑事(佐藤浩市)の調べに外務省職員(北村一輝)が自白するシーンでは、俳優の表情を引き出すことにこだわった。指示は「止めずに撮ります」だけだった。

 「僕らも撮っているときに呼吸一つできないんです。ずーっと役者と同じように見ていて、終わった瞬間は『ハァ、ハァ』という感じです。『カーット!』と言えず、ただ握手しに行くだけでした」と振り返る。その甲斐あり、「最高のカット、最高の芝居を撮れました」と話す。

 熱いドラマを描くことで知られる映画監督の原点は、中学3年のときに見たテレビドラマにある。建設業界を舞台にした『虹の設計』に感動し、映像に関わる仕事を志した。

 大学を卒業後、一度は故郷・秋田の会社に就職するも、ドラマ作りをあきらめきれずに再び上京。ある制作会社で働きながら、ドラマを制作できる会社を探し続けた。

 執念ともいえる求職活動だった。

 「『外に営業に行ってくる』と言っては、自分の営業をしていました(笑)。それで、ある会社で2年間アルバイトし、社員になりました。そのとき子供がいたんですが、子供がいるというと就職させてくれないかと思い、社員になるまで内緒にしていました」

 ドラマへの熱い思いは、撮影現場でも貫かれている。こだわるのは「熱量」だ。俳優と同じテンションになるまで、本番の撮影には踏み切らない。「助監督さんが『本番行きましょう』と言っても、自分の中でそこまで上がっていないとなかなか行けないんです。熱量の度合いが一緒にならないと、いい芝居は撮れない」と話す。

 監督、俳優に加え、全スタッフにも熱量を求める。撮影現場では初日に全員の名前を覚え、自分の仕事について意見を出すよう促す。その狙いは、責任感、そして作品への参加意識を持たせることにある。

 「最終的な責任は僕が取るんですけれど、『責任はあなたが取って下さい』と言うんです。責任を負わせると、人間の仕事の仕方は倍増します」

 『しんがり』『石つぶて』でプロデューサーを務めたWOWOWの岡野真紀子さん(35)は「最初の顔合わせが終わったときに、必死でスタッフの名前を書いて覚えていました。それに、スタッフのプロフィルをよく覚えているんです。それでスタッフに応じた熱量の上げ方を考えているんでしょう。みんなが『若松組が特別』というのは、全員に存在価値があるということなんです」と証言する。

 「熱量」にこだわり、社会性の強いドラマを作り続けてきた監督は今後、どこに向かうのか。撮影したいテーマを聞くと、意外な答えが返ってきた。

 「実は一番やりたいのはラブストーリーなんです。年を取ると、優しさを共有するようなものが大事だと気づくことが多いじゃないですか。そういうゾーンに僕も入ってきているんじゃないかと思いますね。男と女のもやもやした恋愛感情を、ノルマンディーの霧の中でうまく表現したルルーシュ監督の『男と女』のような映画をつくりたいなと思っています」(ペン・森本昌彦 カメラ・寺河内美奈) 

 ■若松節朗(わかまつ・せつろう) 映画監督・テレビ演出家。1949年5月5日、秋田市生まれ。68歳。日大芸術学部卒業。テレパックを経て共同テレビジョンに入社し、数多くのテレビドラマや映画を手がける。現在はフリーで活動。代表作として、テレビドラマに『振り返れば奴がいる』『やまとなでしこ』『弟』『チキンレース』など、映画では『ホワイトアウト』『柘榴坂の仇討』など。最新作『石つぶて~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~』は8日から再放送され、4月20日にDVDが発売される。