【ぴいぷる】信じる力で主婦から映画プロデューサーに変身 益田祐美子さん「人は支えあうから強くなる」

益田祐美子さん

 夢を現実に変える。小さな夢ならかなえやすいが、個人が映画製作に乗り出すとなるとそうもいかない。

 「そう簡単なことではなく、無謀だといわれました」と持ち前の微笑を浮かべる。

 15年前、映画はまったく素人の一主婦でありながら、イランとの合作映画『風の絨毯』(2003年)を、ゼロから作りあげてしまった。

 「イランは日本と違う文化をもっています。予想を超えた事態が次から次に起こって、普通なら投げ出してしまうようなこともありました。だけど投げ出さなかった。普通じゃないのかしら」

 どんな状況にあっても微笑を絶やさず、人を信じ、好きになる。そんな姿勢が、下手なプロ意識をしのいで、プロでも困難な夢を現実にしてしまったのだ。

 「きっかけは一人娘です。ある映画のオーディションに合格して、地方ロケがあったんです。初めて映画の現場を見学するうち、そうだ、日本とイランの子供が心を通いあわせる映画を作ろうと思ったんです」

 なぜ、イランだったのか。その答えはイラン人が経営するペルシャ絨毯店が自宅の近くのあったことにさかのぼる。たまたま店にいたところ、客との間に入って交渉する機会があり100万円もする絨毯が売れたのだ。

 「すると、イラン人のご主人が気をよくして、客がくると私を呼び出すようになったんです。私も面白がって協力するうち、いっそ会社を作ろうという話になって、ご主人が社長、私が店員になったんです」

 行動の人だ。実家が飛騨高山で和風旅館を経営していたこともあって、初対面の人と気軽にふれあうことができる。

 気づいたときには、映画作りに走り出していた。祇園祭の鉾にペルシャ絨毯がかけられた実話をベースに、ペルシャ絨毯と故郷の高山の行事である「飛騨高山祭り」をからめて、日本とイランの子供が心を通わせる物語を織り込んだのだ。

 「家族から大反対をうけました。でも、なんとか説得して。製作資金集めから脚本家、監督、出演者の選定など、一から学びながらのスタートでした」

 異なる文化圏の人たちとの共同作業だ。契約ひとつをとっても、日本とは勝手が違い、行き違いや失敗の連続。

 「そのかわり、映画製作を通して、実にさまざまな人と出会えました。それが今も貴重な“財産”になっています」

 大きな組織を後ろ盾にして作る映画と違い、個人で作る映画では、製作資金集めが重要な柱になる。果たして一主婦にできるのかと周囲はいぶかった。しかし《人を信じ好きになること》を貫き、乗り切ったという。

 「乗り切ったと思ったら、また壁がたちはだかる。それが映画製作ですね。クランクインを前にして9・11の同時多発テロが発生したときは参りました。それまで積み上げてきたものがガラガラと崩れてしまって」

 でも、彼女の辞書に「めげる」という言葉はない。

 「国際情勢が大変な時だから、逆にイランとの映画を作る意味があると、かえって闘志がわきました。撮影はその前にも一度延期されているんです。当然、製作資金はオーバー。もうダメかと思ったこともありますが、頑張ってなんとか1億5000万円を集めました」

 苦労が大きければ大きいほど、それを克服し完成にこぎ着けたときの喜びも深く大きい。これまでドキュメンタリーもいれて15作ほどの映画をプロデュースしてきた。

 最新作は『一陽来復 Life Goes On』(3日公開)。

 東日本大震災後の東北3県を舞台に被災者の暮らしを追った異色のドキュメンタリーだ。監督はこれまでも何本かの作品で製作プロデューサーをつとめたユン・ミア氏。

 悲しみを胸の奥に秘めながらも、希望を捨てずに淡々として、しかも前向きに生きる被災者たち。カメラは彼らの暮らしを静かに見つめる。

 「そのほうがかえって強い感動をもたらし、希望が生まれるんですね。試写会には秋篠宮ご夫妻と眞子さまがお越しくださり、非常に関心深くご覧いただきました」

 一連の作品を通して強調したいのは、人はひとりでは生きられないということだ。

 「ひとりは弱いけれど、支えあうから強くなる。人と人との間で生きているから、文字通り“人間”なんです。映画製作を通して、人の心は傘に似ていて開いたときに最もよく機能することを、身をもって知ることができました」(ペン・香取俊介 カメラ・宮川浩和)

 ■益田祐美子(ますだ・ゆみこ) 企画プロデュース会社「平成プロジェクト」代表。1961年2月生まれ、57歳。岐阜県出身。金城学院大学卒。雑誌記者を経て、2003年、イランとの合作映画『風の絨毯』を製作したことを機に映画プロデューサーとなる。『平成職人の挑戦』(05年)、『蘇る玉虫厨子』(08年)、『築城せよ』(09年)、『シネマの天使』(15年)、『こいのわ 婚活クルージング』(17年)などを製作。東日本大震災から6年後の東北を舞台にしたドキュメンタリー『一陽来復』が3日から順次公開。