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【元文春エース記者 竜太郎が見た!】池袋暴走事故で思い出した「光母子殺害事件」 少年を糾弾する記事に心開いた被害者 (2/2ページ)

 その崖に行くと、下手すれば子犬が死んでしまうかもしれない高低差だった。底に落ちた子犬は急な傾斜を必死で駆けのぼり、飼い主Aの元に戻ってくる。子犬をおもむろに抱えあげたAは、またしても子犬をほうり投げる-。

 少年だろうが、少年法がなんだろうが、こんなひどいことは絶対に許せない。私は、まだ見ぬAの冷たい目を想像した。

 自分の欲望を満たすだけの犯行に、何ら反省などしていないに違いない。私は主婦の証言を入れ、記事を書いた。そのあと編集部に1本の電話が。それは被害者の本村さんからだった。

 「ほとんどのマスコミがAに同情的な記事を出す中、あの記者さんだけはわかってくれると思いました。だから会いたい」

 後日、新日鉄独身寮で私たちは会った。初告白のスクープであったが、それ以上に私は、彼の心情に共感し涙した。つらいのは家族。記者が泣くなんてもってのほかだ。6畳間の床は固く冷たく、悲しい言葉の熱が低く垂れ込めるようにあった。

 平成が終わろうとする今、再び光市の現場を訪れると、すでにアパートは解体され、更地になっていた。何が変わったのか、何が朽ちていくのか、わからないまま、あの頃と同じように私は立ち尽くしていた。

 ■中村竜太郎(なかむら・りゅうたろう) ジャーナリスト。1964年1月19日生まれ。大学卒業後、会社員を経て、95年から文藝春秋「週刊文春」編集部で勤務。NHKプロデューサーの巨額横領事件やASKAの薬物疑惑など数多くのスクープを飛ばし、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞受賞は3回と歴代最多。2014年末に独立。16年に『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ』を出版。

 中村氏も出演している夕刊フジ創刊50周年記念DVD『実録・夕刊フジ~平成報道戦記~』が好評発売中。

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