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【大谷能生 ニッポンの音楽教育150年間のナゾ】中学校の「器楽」の現在(1) 平成時代の音楽の教科書を読んでみると、予想外の楽器が… (2/2ページ)

 その次に載っているのが「ギターを演奏しよう」です。平成時代では、中学校でギターの弾き方を教えているんですね。ぼくの子供時代(昭和末期)に、音楽室にギターとかあったかな? と思い出してみたのですが、一台や二台はもしかしてあったかもしれないけれど、クラス全員で合奏できる数は、まあ、絶対に揃っていなかった。今はどうなんでしょう。ギターは歌の伴奏などに適した楽器なので、中学校の授業で一通りやっておけば、のちのちJ-POPの弾き語りなどに応用できるので、結構使える「勉強」になるんじゃないかと思います。この課題が、リコーダーよりは少ないですが、8ページ。

 そして、その次に来るのが、これがなんとも予想外だったのですが、「箏〈ルビ:こと〉を演奏しよう」というテーマです。

 箏ですよ。あの13本も弦のある。畳一畳分くらい場所を取っちゃう。正座して演奏する。鑑賞する授業ならまだ分かりますが、「演奏しよう」ですからね。本気か? と目を疑ったのですが、教科書はマジらしく、リコーダーやギターと同じように、「構造」、「柱〈ルビ:じ〉の立て方」(右手で糸を持ち上げ、左手で柱を挟むように持って竜甲にしっかり固定し、糸をかけます(写真左)。一の糸と巾の糸の柱は、足の片方を磯にかけて立てかけます(写真中、右)、「爪」、「調弦」…と、各種専門用語を繰り出しながら、ギターと同じく8ページにわたってその演奏方法を解説しているのです!

 実際に「虫づくし」、「姫松」、「さくらさくら」といった楽曲の譜面も載っており、そしてこれが(音程をドレミに直した五線譜での譜面も一応小さく載っていますが)、「一」とか「七」とか「為」とか「巾」とか、「ツンツンテーン」とかで縦に記された、いわゆる「家庭式縦譜」という書式で掲載されているのです。いやー、これ、先生、この譜面で演奏するやり方って教えられるんですかね? 大学で習うのかしらん? 実際、ぼくはここでこの形の譜面の読み方を初めて知りました。

 しかし、お箏をクラス分用意するだけでも大変だろうし、大変というか、場所的にも無理だし、和室じゃないと格好つかないだろうし、チューニングだけで授業終わっちゃいそうだし、だいたいみんなで一斉に練習するような楽器じゃないんじゃないか…とか、いろいろと思うわけですが、読んでみると教科書側は「箏を教える」コトに大真面目らしく、「箏を平調子に調弦して旋律をつくろう」といった課題もあり、これ、平成時代の音楽の授業では、少なくともページ数的にはギターと同等の、堂々たる扱いで取り上げられているのでした。

 半信半疑で次に進んでみると、次は「三味線を演奏しよう」! …このあたりでだいぶん気が付いたのですが、平成時代の音楽の授業では、いわゆる「邦楽」の楽器を演奏すること/させることが、「必修」として指定されるようになっているのです。

■大谷能生(おおたに よしお)

 音楽と批評。ミュージシャンとしてジャズを中心に、さまざまなバンドやセッションで活動。著作としては『平成日本の音楽の教科書』、『ジャズと自由は手をとって(地獄に)行く』、『東京大学のアルバート・アイラー』(菊地成孔との共著)、『日本ジャズの誕生』(瀬川昌久との共著)、『身体と言葉』(山縣太一との共著)など多数。

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