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【中本裕己 エンタなう】悪のカリスマが抱えた“哀しきルーツ” 映画「ジョーカー」

 すごい映画を見てしまった。映像の持つ負のオーラにくらくらする。DCコミックスで「バットマン」の悪役として広く知られた男の出生の秘密を暴く「ジョーカー」(公開中)。ホアキン・フェニックス演じるアーサー(後のジョーカー)には、いまの世界が抱える憎悪と哀しみが凝縮されている。

 1980年代という設定のゴッサムシティ。最も治安が悪かった頃のニューヨークに似ているようで、救いのない格差社会はどこかで見た光景でもある。心優しい青年、アーサーは、「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」と、同居する老いた母に言われ、ピエロのメークで、大道芸人として街に立つ。

 悪ガキにいたずらされ、自身が抱える病気を人々からバカにされても、同じアパートの住人に恋心を抱き、コメディアンを夢見ていた。ロバート・デ・ニーロが司会者に扮した人気テレビ番組に憧れながら…。

 アーサーが、社会的な弱者ゆえに転落を重ねていく場面が、あまりにつらい。だからといって、悪のカリスマとなって、暴徒を煽ることが許されるわけはないが、本当の悪とは何かを深く問いかける。チャップリンやシナトラの有名な曲が効果的に流れる。愛の歌が、レクイエムに聞こえ、天然色の街がモノクロームに見えてくる。

 笑いと仮面の下に、ぶつけどころのない狂気と、まともな人間なら憤って当たり前の正気を隠したホアキンの怪演を見るべし。

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